そして二度目の春が来る




振り向いたとき、彼はももいろの花束をもちあげてそれを自慢げにこちらにむけるところだった。

「ねぇねぇ、もう花が咲いてるんだよ、すごいね!!」

そうか、彼のところではもう花が咲いたのか。そんなことをおもいながら、俺は曖昧に頷いた。俺のところでは花はまだ咲いてはいない。彼は嬉しそうに花を抱き、そして笑った。そんな姿に俺は笑う。彼の笑顔は好きだ。心の底から好きだ。子供っぽいところをとこす彼のほほえみが好きで、俺はこうして彼の後ろを歩いている。不意に、彼が振り向いた。かけてくる足音。自分の前で、はた、止まる。

「ドイツ、なんか元気ないね。」
「俺のところには、まだ花は咲いていないからな」
「そうなの?」

彼の顔が、ふありと笑んだ。上げられた両手。光をさえぎるその手の向こう。きらきら今日も輝く太陽。

「ドイツにも、お花あげるよ!」

手と、光る太陽と、そして散る花・花・花。
あぁ、そうだ、あのときもこんなときだった。



もう何十年前になるのだろうか。遠く寒く、ひどい戦争のなかで、彼は俺を離れたくないと泣いた。どこまでも一緒にいたいと、泣いて、ないて、だから彼を連れて戦争をした。それでも限界はくる。

『もう…おれはいても、迷惑にしかなれないよ…。』
『迷惑などでは、』
『迷惑だよ、だから、ね。』

彼は咲いていた花をひらひら舞わせた。この大空にひらりひらりと。

『こうふくするよ』

この国では、もうあのとき、花は咲いていて俺はぼんやりとそれをみていた。彼の首相はもはや死刑台にあがり、彼もまた、決断をせねばならなかったのだろうけれど。

『ひとり、は、いや、だ、なぁ。』
『ひとり、は、いや、なんだ…いや…なんだ。』

ぼろぼろと涙をこぼす、彼をみていた。彼はひどくきれいに泣いて、俺はただ、立ちすくんだ。





ひらひら、今も花びらは舞う。そのうえに、太陽、手、青空。
平和になった。ここはとても、平和になった。本当はあの時、俺もさみしかった。君がいなくて、ひとりきりで。
ももいろの花は散る。浮かんで、落ちて、足もとに散らばり、あぁ、この桃色の世界のなかで、吹きゆく風に身を寄せる。


「春だ」






ももいろせかいも二度目の春を迎えました!ありがとうございます。

みなさんの拍手のおかげです。感謝しています。