眩惑…暗い中で眩しい光を見たとき、その眩しさに一瞬何も見えなくなること。衝突事故の原因になりやすい。
眩惑、それに惑わされたある人について
あぁ、そう、私は目がくらんでいたのです。彼はあまりにも眩しすぎて今の私には眩しすぎて、だから何も見えなくなっていたのです。私はあまりに暗い中にいすぎていました。だから眩しい光に耐え切れなかったのです。見えなくなっていたのです。貴方の姿もその想いも。私が貴方を見たとき私は東の小国で貴方はもう既に大国でした。貴方は私の前にあまりにも大きく立ちはだかりました。貴方は光で私は影でした。見えなかったのです。眩しさにくらんだ目には何も見えなかったのです。
眩しさにくらんだ目で私はうまく体勢を整えることができなかったのです。光で目がくらむということは必ずその光のなかに光を出す貴方がいて、それを見続けている自分がいるのだという簡単なことに私は気づくことができなかったのです。私は見えない視界の中でその光すら憎みました。暗いこの世界の中で光る光を妬みました。ねたむ気持ちは酷く暗くにごったものです。ですからもう一つの自分の心にすら気づくこともできなかったのです。そのとき同時に世界が闇に覆われているときでもありました。だからより貴方の光は私の目を惑わせたのかもしれません。暗いくらいあの夜に私は貴方を呼び出して、おどける貴方にキスをしました。食いつくように一度だけしたそのキスは歯を酷くぶつけたようで切れた唇の嫌な感触と錆びた鉄のような渋い味しか残しませんでした。背の違いから私が飛びつくような格好になったからでしょう、貴方の眼鏡は派手な音を立てて落ちて、呆然としたような貴方は私にピントを合わせきれずに目を微かに揺らしていました。
振り向いて出て行く私の後ろで貴方は困ったように、どうしたんだい、と叫んでいて、その状況に合わない言葉に私は笑いました。それだけでした。私の貴方の接触はいうなればそれきりでした。鉄くさい味のキスが一回きりでした。私は光に目がくらんでいました。だからどうしてキスをしたかったのかすら気づかずに、気づかずに、ただ光に突っ込んでいったのです。敵うはずもない何かに突っ込んでいったのです。叶うはずのない想いをのせたまま。
眩しさにくらんだ視界の中で、そう、やっと貴方を見つけて、そう、やっと想いに気づいたときには、あぁ既に。
衝突は避けられないところまで来ていたのです。
WWU直前の2人