緑の目が欲しかった



緑の目が欲しかった。
酷く酷く欲しかった。

自分の目が気に入らないわけではない。自分の薄茶の目は髪色とあっているからむしろ好きだった。
よくまわりの人も褒めてくれたしね。
あぁそれでも俺は緑の目が欲しかった。
奇麗な目が欲しかった。

それを見たのは戦場が最初だった。
それは酷い争いの最中で俺はこわくて身を潜めるしかなかった。
そんな俺を見つけたのが彼だっただけのこと。

『そこ、誰かいるだろ』

そういいながら覗き込んできたのが彼だった。
彼はライフルを抱えたまま俺を見ていた。
俺は怖くて息をのむしか出来ずに、あぁそれでも彼は俺を一瞥して何故か、何故か見逃してくれたのだった。
おそらく、俺たち国は撃たれても死ぬことはなく、だから撃つに値しないという判断だったのだろうと思う。
あるいはただのきまぐれか。
彼はドイツとおなじように実用性と功利性で動くけれど、時々妙に気まぐれだ。
だから、おそらくそんな気まぐれもひとつの理由だったとは思うけれど。

ううん、こんなこと本当はどうでもいいんだ。見逃してくれたことが重要じゃあない。
ただ、その時俺は世界で一番奇麗な緑を見たのだった。
瞳に輝くエメラルドグリーンを見たのだった。
俺を一瞥したときに見せたその緑がこれ以上ないほどに奇麗だったのだ。
それは俺の心を一瞬で染め上げて、そして奪っていった。 あの緑のためならなんでもできる気がした。それくらいの色だった。 だからそれだけが俺にとっての重要で、それ以上のものはなかったのだ。


俺はため息をつきながら鏡を見る。
瞳は薄く茶色に濡れている。

あぁ、違うの。こんな目が欲しいんじゃない。
瞼を閉じれば向こうに奇麗な緑。手に入らない緑。
あれが欲しいのあれが。

戦争が終わっても、彼は幸せそうじゃなかった。
いつもどこか遠くを見つめて瞳を伏せる。
噂はどこからか吹いてくる。彼には想い人がいるのだと。遠く遠く海の果て、東の果てにいるのだと。
彼の奇麗な緑の瞳にちらつくのは黒の双眸。
あぁ、駄目、駄目だよ、そんなことしたらせっかくの緑が。透いて向こうまで見えそうな緑が。

俺をみてくれればいいのに。俺は思う。
俺なら悲しませないのに。
俺にたりないものはなんだろう。
俺はどうしていつも海の向こうの彼にまけるのだろう。
俺は黒の目と髪を持つ彼よりずっと長くここにいるのに
俺はどうしていつも負けるんだろう。
俺に足りないものはなに?
俺は何を手にしたらいいのだろう。


貞淑さ?落ち付き?黒の髪?違う、違うね。
俺に足りないのは緑の瞳。
透いて見える緑の瞳。
あれが手に入ったら、彼と同じ景色が見れるだろうか。
俺は目を閉じて想像する。彼を同じ景色を見る俺はきっとだれにも負けないだろう。
笑った俺の前を緑を光らせた彼が通る。

待っててね、きっと俺は緑の目をもらうから。



それでもなお、緑の目がほしかった(そうしたら彼と同じものが見れるかもしれない。)