手を繋ぐ理由



とろとろとろり、夏の残骸をとかしこんだような夜だと思った。イタリアはそのとけたような闇に手をのばして、指を適当に動かす。腕には夏の暑さが少しだけまと割りついて、まだクーラーをつけずに眠るにははやかったかもしれないとイタリアは少し思う。特に、隣でひとが寝ているようなときは特に。

「起きたのか?」

隣から不意に声がして、イタリアはそちらを振り向いた。薄闇の向こうにこちらを見つめる青の瞳。小さく頷くと、のばされた手によって上にかざしていた手を握りこまれた。そのままシーツの上に手が落ちる。まとわりつく空気はまだ湿っぽく暑い。夏が残っている。残って、消えゆく最後の悲鳴を上げている。

「ちょっと、目がさめちゃっただけ」

答えた声は先ほど出しすぎたせいか微かにかすれていて、なんだか妙に気恥かしい。目の前の彼もそうだったのか、苦笑したように顔を伏せた。流れる沈黙。普段なら嫌うはずのそれが、今はそれほど嫌じゃなかった。否、彼とだから、良いのだろうか。

握りこまれた手を動かして、彼の指に自分のそれを絡める。固めの彼の指に対して自分のそれは細く映った。細く、白く、何も守れなかった、手。

昔、これと同じように彼の指を握りこんだことがある。それはもう60年も前の話で、まだ世界が戦争に溺れていたころだ。極限状態の中、敵が近くにいるかもしれないそんな戦場の中、同じように彼と手を絡めあった。今よりもっと蒸し暑い夏の話のことで、それは衝動としかいいようがなく。

まるで、枷を外されたように、求めあった、夜があった。

「何を考えてるんだ。」
「昔のこと。」

笑う自分の前でそうか、と神妙な顔で語る彼は、もしかしたら同じ夜のことを思っているのかもしれない。暗闇の中二つの手は絡まりあう。あの頃、自分と彼の間にあったのは多分極限での衝動でしかなくて、それを愛だというのは馬鹿げた話なのかも知れなくて、それでも今平和の中でも手はつながれているのであって。

「考えても、なにもわからないんだけどね。」

夏の最後の空気の中で、そう言って笑うイタリアは、ドイツにそっと口づけた。

「それでも、唯一つわかることがあるよ。」

今、手を絡めている理由はあのころとは違った、愛だということ。



とけたような夜の中で確かに思った