愛は何味だろうか

「愛って何味なんだろうね。」

そう呟いてイタリアは茶色の髪を緩くかきあげた。その腕は細く、乾いた枝を連想させて、ロマーノは小さく舌打ちをする。イタリアは、ここのところめっきり食が細くなった。おいしそうに食べていた料理を食べきれずに残す。パスタが一人前食べられない。ソテーに手をつけ、二口でやめる。ふっくらしていたはずの頬は今ではげっそりとこけていた。

「さぁ、しらねぇよ。」
「もう…そんな気のない返事しないでよー。」

笑うイタリアの顔は、それでもどこか陰がある。最近ではほとんど食べ物らしい食べ物を取ろうとしない。ロマーノはそんな彼にゼリー状の栄養剤を勧めた。彼は少し笑って、いやそうに毎日それを嚥下する。

「お前、いつまであいつのことを想ってるんだよ。」

思わず、声を上げていた。ロマーノの前で、彼はゆらりと揺れる。いつまで、あいつにとらわれるんだよ。もういちど叫ぶ。彼がこんな風になった、そのわけが解らないほど鈍感にはなれなかった。彼はいま、心をとらわれてしまっているのだ。どうしようもないほど深く、そして罪深いほどに強く。いつも彼のそばにいた、

「あいつとか、なれなれしくいわないでよ。」

ゆれる、ゆれる、イタリアの手がロマーノを掴む。骨ばった指が食い込むようにロマーノの腕を握った。その目をみて、ロマーノは思わず息を呑む。深い、深い茶色。自分の同じ色のそれが、まるで初めてみる色に思えた。息を吐く。


彼はかなわない恋をしてしまったのだ。どうしようもないくらいに惹かれてしまった。あの人に。どれだけ想っても、その人はイタリアを友人としてしか見なかった。その事実を直視するのが酷く辛く、イタリアは心を病んだ。イタリアが病めば病むほど、その人は心配した。友人の不調を感知して、世話を焼く。それが、イタリアには辛かった。友人としてしか見られない自分を、気づかない彼を憎む彼は世界を捨てた。おいしくもない栄養剤を嚥下しながら、彼はぎりぎりこの世につなぎとめられている。


「あいつとか呼ばないで。俺が馬鹿みたいじゃん呼ばないで。俺は、待ってるの。ずっとずっとまってるの。いつか、俺は、愛を食べるの。二人で一緒に愛を食べるの。きっとおいしいよ、ねぇ。だから今は何も食べてないだけなの。いつか、いつかはきっと。」

彼のこけた頬の上を涙が滑る。いつか、そのあてにならない時間を頼りに今日も彼は生きていく。ロマーノはその彼の涙を見ながら、溜息を吐くのだ。あぁ、これだけ心奪われてなお、実らない想いもある。空をみあげる。あの人の目と同じ青が広がっていて、思わずロマーノはその空につばを吐いた。



2人で食べる愛の味はきっとあまいあまい味のはず