キス=スキ



通称900年代からの運命の恋人(本人たちは無自覚)こと、ドイツとイタリア=ヴェネチアーノ(通称イタリア)は今日もバカップル全開だった。
「ねードイツー」
ドイツの腕をくいくいと引いて上目づかいに見つめるイタリア。
「…人前だぞ。」
そう言いながらもイタリアを抱きしめ額に口付けを落とすドイツ。
「えへへ。ドイツ大好きー」
イタリアは嬉しそうにドイツに抱きついてきた。

「あいつら、俺らの存在忘れてねえか?」
とげんなりとした顔で呟くのはイギリス。
「というか、今イタリア、ハグしろともキスしろとも言っていないのにドイツに通じていたねえ。」
遠い目をするフランス。

その時だった。
「だー!!!やっぱり俺は納得行かねえ!!!!」
だむっ!そんな音と共に机をたたいたのはイタリア=ヴェネチアーノの兄、イタリア=ロマーノ(通称ロマーノ)
「そもそも、なんでジャガイモ野郎なんだよ!堅物のくせにムッツリスケベだしジャガイモだし変態だしゴツゴツだし!お前もこいつがサドだって身をもってわかってる筈だろ!!!???俺この間見たんだからなお前の腕!!!」
ノンブレスで叫ぶロマーノ。
「何があったんだ?」
「ああ、そういえば最近イタリア、肌見せない服が増えていたな…」
そんなことをこそこそとフランスとイギリスは囁き合う。
「それに、こいつキスめちゃくちゃ下手って話じゃねえか!!!!お前満足できんのかよ!」
世界で3番目にキス上手な国の片割れ、ロマーノはそう叫ぶ。
「「あ、それは俺も思った」」
世界で1・2を争うキスの国、イギリスとフランスも頷く。
「えー?でも、俺、ドイツのいつものキス好きだよ?」
世界で3番目(ry)のイタリアは不思議そうに言う。
「お前…下手専か?」
イギリスは呆れたように問いかける。
「そうかもねー。なんせおにーさんがいくらキスしても嫌がったのに、昔、プロイセンのキスに真っ赤になってたよな。まじで下手専かも。」
フランスが懐古の表情で思い返せば。
「だぁってぇ、プロイセンのキス、神聖ローマに似ててドキドキしちゃったんだもん。」
昔を思い出しちょっとだけ頬を可愛らしく染めるイタリア。

ぴしり。
空気が一瞬凍りつく。

「ヴェ?」
後ろでドイツが黒オーラを出していることになど気付かない天然イタリアであった。

「は…ははは、プロイセンのキスって幼稚園児並ってことか?」
「も…もてないわけだよな。あはははは。」
必死で空気を和まそうとするフランスとイギリス。

「あ、そういえばちょっとドイツのキスも似てるかも。」
だが、その必死の空気をぶち壊すような空気の読めない発言をするのがイタリア=ヴェネチアーノなわけで。

「はっ…結局てめーも幼稚園児並ってことじゃねえか。だっせえの。」
ドイツ嫌い、ゲルマン大嫌いのロマーノが、火に油を注ぎこむ。

ぶちん。何かが切れた音がした。

「イタリア」
「なーにドイ…んっ…」
突然ドイツがイタリアの腕を掴み引き寄せたかと思うと顎に手をかけ唇を重ね合わせる。
一瞬目を見開いたイタリアだったが瞳を閉じ、ドイツの背に手を回すのが見える。

「おーお暑いことで」
ひゅぅ♪と口笛を吹くフランス。

「おーい人前だぞ。」
一応つっこんでみるイギリス。

「…ジャガイモ殺すジャガイモ殺すジャガイモ殺す…」
ぶつぶつと据わった目で呟くロマーノ。

そして数秒後…
いったんドイツがイタリアから唇を離したかと思ったらちろりとイタリアの唇を舐め上げた。
「んっ…」
直後ぴくんっと身を震わせ、甘い呻きを上げたイタリアを腕に閉じ込めるとそのまま深く口付ける。

ぴちゅ…ちゅぷ…
「はっ…あっ…どいっ…」
濡れた口付けの音、口付けの合間に漏れるイタリアの声はあたかも情事のような熱を持っていて…
聞いている方が赤くなってしまう。

別にドイツはイタリアのどこかに触れているとか、髪に触れているとかをしているわけではない。
ただ、深く、深く口付け、舌を絡め合わせているだけ。それだけである。

数秒後、がくん。と崩れおちるイタリアを支えると皆に聞こえるように問いかける。
「これでも、あいつらと同じか?」
…プロイセン並とか、幼稚園児並とか言われたこと、昔の想い人と比較された事etc…に余程プライドを傷つけられたらしい。

ふるふるっと潤んだ瞳でイタリアは首を横に振った。

「あー…何ていうか…二人とも大人になっちゃって…」
昔を知るフランスはほろりと涙を拭う。

「…本気出されたら勝てねえかも…」
遠い目をしつつイギリスは呟く。

「……」
ロマーノはただただ不機嫌にドイツをにらみつけていた。
「ね…ドイツぅ…。」
イタリアがドイツに寄りかかりながら震える声で呟く。

「なんだ?」
やけににこやかにドイツは問いかける。

「好き…好き…Ti amo…お願い…抱いて…俺のこと滅茶苦茶にして。好きにしていいから…。」
イタリアは熱っぽい視線を向け理性を飛ばされた表情で懇願する。

「「「は?」」」
人前でもハグやキスをねだるイタリアであるが、流石に人前で情事を求めるようなまねはしない。

…ましてや、サドと名高いドイツ相手に「滅茶苦茶にして」「好きにしていい」などという死亡フラグ寸前の発言をしている所などロマーノですら聞いたことがない。

数秒後、ロマーノの決死の頭突きで正気に返らされたイタリアが青ざめたのはまた別の物語である。



「あのね、俺、ドイツのキス、どっちも大好きなんだけどね…本気のキスはちょっと怖いの…俺が俺じゃなくなっちゃう感じがするから…。だから下手でもあったかいいつものキスの方が好き。あ、ドイツには内緒だよ?」
後にイタリアはロマーノにこう語ったとかなんとか。



空瀬さまよりいただきものです。甘い空気に酔いしれた。