02,迷い猫の目の緑
『ロンドンは霧の街なんだ。』
そう、貴方が言ったのは、いつの日のことだったでしょう。
普段、紅茶ばかりに口をつけてなかなか話をしようとしないあなたが、その日はなぜかとても饒舌。
ゆれるカーテン、広がる町並み。
『ロンドンシティの霧は絵の題材になったりもする』
そう語るあなたは、誇らしそうに嗤う。
あぁ、でもその裏にちらり、みえる
…寂しさの片鱗。
『ロンドンは霧の街なんだ。』
貴方が呟くようにそう漏らしたのは、いつの朝だったでしょうか。
普段他人に隙などみせない貴方が、その日は何故かとても焦っていた。
『あまりに濃い霧で、近くのものも見えなくなるときがある。』
ぼんやりしたままの貴方が、窓を開ける。
しめっぽい空気の流れ。
ミルク色の霧はあたりを嘗めつくして
あぁ、ほんとに、
何も、見えなくなってしまうくらい。
美しくて残酷な白い闇。
隣に立つ貴方の少し高い背を見上げてみた。
白い霧に霞むように、奇麗な緑がロンドンの街を映す。
緑がゆれていた。
白い闇に迷ってしまったひと。闇からのがれたくて、誰にも頼ることもなく。
その緑に宿るのは寂しさのかけら。
ほかに方法も知らぬようにただ強くなって、貴方はそう、
その霧の向こうに何をみたのですか?
朝、です。
私は立ち上がって、サッシを開けます。
とたん、頬をうつ水蒸気。
ねぇ、イギリスさん、日本も、霧の国なんです。
ロンドンほどではないですが、隣人すら見えなくなってしまう時があるんです。
そんな時は、どこかさびしいもの。あなたもあの美しい霧の中でもしかしたら、このような気持ちだったのでしょうか?
縁側に立って、手を広げて。
息を吸えば、喉をうつのは軽い水の感覚。
大丈夫、霧は晴れるものなのですから。
目をゆっくりと閉じた。
朝の霧の向こうで、貴方が最初に見つけるもの。それが私であるといい。
本当は優しい心を隠して一人で歩くのはもう止めにして。
白い闇を抜けた先、貴方が最初に見つけるもの。それは私だったらいい。
揺れた緑を抱えたままで、そんな寂しそうに嗤わないで、
そう、
次に白い闇がきたとき、そのときはきっと
「どうかわたしをみつけてください。」
私もそれを、まちのぞんで、
なんだろうこれ。ふたりとも待ってるって話にしたかったのに。
でも、話のノリは嫌いじゃない。