綺麗なものを見つけたから、また見失う前に


スターフィッシュ


夏の夜というのは不思議なもので、どうしようもないような奇妙な気持ちに襲わ れるのだ。
それは、焦りのようであり、また悲しみのような。

夏の温い空気が頬をなぜる。俺は国としていろいろと酷いことをしてきたと思う 。それについて何か後ろめたく思うようなことはない。国で生きる以上、それは 仕方ないことであり、また誰もがしていることでもある。のは解っているのだ。

ただ、

夏の夜はあまりに緩く淡い空気を連れてきて、それは頭の端に残った微かな記憶 を突つき。

自分に向けられた罵倒に恨み。それもまた仕方ない。何があるわけでもないのだ 。

『ロシアで社会主義の動きが高まっているらしい。』


少し前に上司に言われた言葉を思い出す。


『準備をしておくことだ。』


準備、準備、何の準備だ。戦争か??
なんだか酷く嫌な気分だ。苛立ちぎみに足音高く出ていった自分を上司はどう思 っただろう。知るよしもない。
ため息を吐きながら、窓を開ける。流れ込む湿った空気。それはただの気まぐれ だった。ただ、何とはなく空を見上げて。


瞬間、見えたのは星空。




それがどうした訳でもない。星空が珍しかった訳でもない。そんな事はなくて、
ただ、

何か淀んだこの気持ちまで振り払うようなそんな綺麗なものを見つけたから、ま た見失う前に。




俺は、部屋から走り出した。




この夜ほどに黒く美しい黒髪のあいつに会いたくなった。走りながら近くのポス トに手紙を出す。

『会いにいく』

いきなりこないでくださいよ。困ったように笑う彼の姿が見えるようだ。夏の空 気は湿ったように温かい。こんな夜、彼はどんな気持ちなんだろうか。

こんな星の夜は全てを投げ出してただ君に会いたいと思った。


彼の住む東に向かって全速力で進む。時差がある彼の国で星が瞬き始めるころ。
出した手紙が届くころに、笑う彼に会えるはずだ。






元ネタはELLEGARDENの曲、スターフィッシュ。
とかくまぁ、オフ会で書いたもの。手直しのしようがなくて結局そのまま