01,揺れる木々の緑
「…あ。」
ふと、声を漏らしたのはイタリアだった。
ちらり、とドイツがそちらを向く。
開け放たれた窓の側に座って空を見ていたイタリアはぼんやりと虚空を見つめたまま動かない。
吹き込む風がドイツの前の書類を揺らして舞う。
「どうした?」
「花が散っちゃってる。」
呟くようにこぼした言葉はどこか残念そうだ。
ドイツはちょっと顔をあげて向こうを見る。
確かに、春の花が咲いていたはずの花壇からは色彩が失われていた。
日差しが暑い。気づけばもうこんな季節。
「なつ、が来るねぇ…」
イタリアのネクタイはずいぶんと緩められてしまっている。
確かに、気温はずいぶんと高くなった。
ベルリンにも夏がくる。それは、春の終わりとともに。
「そうだな、夏、だ。」
「なんか、いつもどおりの春だったね。」
「それでいいだろう。」
「まぁね。」
イタリアは空を見上げる。
澄んだ青は夏のものだ。春のぼんやりしたような花曇りはそこにはない。
きらきらと揺れる日光の先、ゆれたのは緑。命の輝き。
目を閉じてみる。眩しい太陽は目に焼き付いて離れずにほら、こんなに残像は残り、
春の名残をとかして揺れて、あぁ、なんだろう、この焦燥感。
伸ばした手は揺れる緑の前にあまりに無力。
「ねぇ、ドイツ?」
「なんだ」
「その仕事、今日ぜったいに仕上げなきゃだめ?」
「…何がしたい」
「何にもいってないじゃん。」
「お前がそういうこと言うときはたいてい何か頼む前だ」
「うーん…」
書類のほうを向きなおってしまったドイツにイタリアはちょっと苦笑。
でも、とイタリアは思う。
ここで引き下がりたくはないよ。
なんだかすごくへんな気持ち。
季節って不思議だよね。冬には暖かい時のことなんか思いつきもしないのに、いつのまにか暖かくなってる。
そして、なんだか、ね、季節の変わり目はなんだか切ない。
「ねぇ、どいつー。」
「なんだ?」
「はるのさいごもおもいでづくりしよ」
振り向いたドイツはため息を吐いて、しかして、反対するきもなく。
ゆっくりと向かうはイタリアの元。
のばされた彼の手は背中にまわされ緩く抱擁。
あぁ、もうすぐ
「はるが、おわるね」
「そうだな」
散り遅れた花の最後のひとひらが風に舞う。
揺れる緑が、夏を告げた。
新しい季節の始まりはいつだって少しかなしい。