春の枢軸−Itaria
かたんことん 電車は揺れる。
ひるさがりの路面電車はお客さんがとても少ない。
かたこと揺れる電車にあわせて俺の体も微かに揺れる。
「はるだ、なぁ。」
はるは、あったかいからすき。
あたたかくて、あまくて、おもたい空気。
ふぁあ、と大きくあくびひとつ。
もうそろそろシエスタの時間。ねむりに誘いこまれそうな頭もふあふあ春霞。
あぁもう寝ちゃおうかな。どうせなんの予定もないから。
終点の駅でぼんやりするのもいいかもしれない。だって今は春なんだ。
閉じようとした目の前に、よぎったのはももいろのひとひら。
「あ、はなびらだ。」
てのひら広げて、体をシートから起こして。
つかんだそれは、ちいさなちいさな桜のはなびら。
『わたしの家では、春には桜を愛でるのです』
そのももいろに誘われたように、日本の言葉が耳にリフレインする。
『桜ってすぐ散るんでしょ?』
『だから、咲いている間を愛でるのですよ。終わりあるからこそ美しいのです。』
こんなあたたかな空気のなかで、咲いてすぐちる桜は寂しくないのかな。
そう俺は思ったのだけど。
手の中の桜はあたたかなももいろ。
はるの空気と同じ色。
あぁそうか、桜は春の空気をたくさん吸ってさくんだね。
春がきたよってしらせにくるんだね。
「みんなが見にきてくれるから、寂しくないね。」
優しい桜の色は、日本の笑顔の暖かさとどこか似てる。
そう思ったら、なんだかみんなに会いたくなった。
今度、ドイツと日本と俺と三人で、桜の花を見に行こう。
暖かなはるをみにいこう。
ゆっくり俺は目を閉じる。
あたたかな春はしあわせのいろ。
あまい空気のむこうは花霞。
はるのゆめからめざめたら、このももいろにあいにいこう。
春の枢軸イタリア編。拍手ありがとうございました!!