ごめんなさい。少し歴史を無視してかいています。
歴史的におかしい点があっても気になさらない方のみどうぞ。
05,好きって言って
また、戦争があったんだろうな、ということは簡単にわかった。
屋敷に血の匂いがするから。
嫌な匂いだ、とロマーノは舌打ちする。
湿った鉄の匂いは好きじゃあない。空気まで湿るような気がする。
スペインの家の重い鉄の扉はロマーノがここに来た時から変わっていない。
ただ、この家の雰囲気は変わってしまったけれど。
昔、世界中の金銀を集めて賑わっていた屋敷は見るかげもない。
みんなあちらこちらの国がふんだくっていった結果。
「スペイン。また戦争かよ。」
「ん…あー」
赤い、足跡が床を汚している。
少し左右にずれながら進んでいたそれは、革張りのソファーのところで途切れて。
ちっともう一度舌打ちしてからロマーノは赤い足跡を辿る。
どうせ、きがすむまで戦ったに違いない。
たどりついたソファーには、嫌になるような赤い色。
湿っぽい色。
さいあくだ。
「あー…ロマーノ?なんやお出迎えなんてえらい珍しいなぁ…」
「…馬鹿いってんなよ。ってか起きるなよけがしてんだろ、ちきしょうが!!!」
背もたれから覗き込むようにソファーを覗けば片目を開いたスペインが起き上がろうとするから、
慌てて静止。
まだ、大丈夫だって見栄でもはりたいのか、とまた舌打ち。あほじゃねぇの、こいつ。
「こらー舌打ちはあかんやろ。女の子に怖がられるでー。」
俺の静止も聞かずに起きあがったスペインの黒髪からも、湿った鉄の匂いがした。
なんだよ、こいつ。
舌打ちしようとして、スペインを見て止めて、
ロマーノは下を向く。
なんでこんなになるまで、戦争をしてるのか、なんてそんなことがわからないほど、もう子供ではない、から。
「ばかじゃねぇの。」
「なんやいきなりーひどいなー。」
スペインは笑いながら、でも苦しいのか、立ち上がろうとはしない。
そこまでして
「…他人のためにそこまでして、なんかいいことあんの?」
ちらり、こちらをグリーンの瞳が見る。
すぐにそれは優しく細まって
「なんのことゆうてんのかわからんなぁ。俺は俺のために戦争しとるから。」
嘘吐き。
いつもこうだ。こいつはいつまでガキ扱いするんだろう。
「…わからねぇとでも思ってんのか」
「ロマーノ?」
「お前、俺が戦争行かなくていいように毎回戦争してるくせに…!!」
小さいころからそうやって守ってもらうばかりで、これでは、不公平じゃないか。
「あー…そないなこと気にしてたん?」
吐き出すように言ったスペインは、気が抜けたようにソファに倒れこんで。
あわてたロマーノに手をひらひらと振って、大丈夫やから、と一言。
「それも、俺がしたくてしたことやから、ロマーノは気にせんでいいよ。せやけど、もし、なんか
せな不公平や、おもてるんなら。」
覗き込んでいるロマーノの頭を、スペインの血ぬれの手が滑る。
「好きってゆうて」
わらったスペインからは、鉄の香り。
それでもその笑顔はあまりに優しくて。
ロマーノは不意に泣きそうになって、あぁどうして俺は、
こいつの力になれないんだろう。
なんの役にもたてないんだろう。
「…すき。」
驚いたようにグリーンの目が見開かれて、それをみながら、
ひとつ、思いついたことが、あった。
「…なんや、明日は槍でもふるかもしれんな。」
「降るかよ、ばーか。」
俺も、強くなれればいい。
力になれるくらいに強くなれればいい。
そのためには多分、ここで守られていてはダメだ。
「今から医者よぶから、動くなよ!!!!」
「なんやーロマーノが世話してくれるんやないのー。」
「するかよ。」
ちゃかすスペインを置いてロマーノは部屋から出ていく。
医者を呼ぶ、その前にまっすぐ歩いて、スペインの仕事部屋へ。
机の引き出しから、短銃をとりだす。
手にかかる重みに迷いはなかった。
次は自分が、守れたらいい。
「…結局、俺は守れへんかったなぁ…」
一人になった部屋でスペインは血ぬれの手をかざす。
「さっきのロマーノの顔、決意したって顔やったもんなぁ…」
多分、もう少ししたら、ロマーノは自分の手から離れるだろう、とスペインは思う。
そして、戦争の中に身を置くだろう。
「なぁ、解ってな、ロマーノ。俺はな、守りたかったんよ。」
あんな悲惨な戦争を、知らなくていいと思った。あのとき、オーストリアのとこから来たロマーノは
あまりに子供で、あまりに物事をしらなくて、あまりに奇麗だったから。
「汚いことなんか、知らんでええとおもたんよ。」
まもり、きれんかったけどな。
目を閉じる。傷口が痛む。いや、傷口だけやないか、と苦笑して。
すきだ、という言葉を思いかえしながら、
なんでこんなに泣きたいんやろか、と呟くスペインの声は湿った空気に溶けて消えた。
ロマーノがスペインから独立するいきさつについての歴史を詳しく知らないので、
そのあたりに戦争があったか、とか解らないから捏造。最悪。