ミレイユ
イタリアの頭がかくん、と落ちて、手に掛かる体重が重くなって、俺はイタリアが寝ついたことを確信する。
遠慮なく体重をかけてくるイタリアをなんとか支えながら、手に持っていたはちみつその他を近くのテーブルに置いて。
結局、
「無駄になってしまったな、これは」
腕の中で眠っているイタリアを抱きかかえて、奥へと続くドアを開いた。
たいていこいつの方が押しかけてくるから確証はないが、たしか奥に寝室があったように思う。
ドアをあければ、やはり寝室。
明け放たれた窓から入る風がカーテンを揺らしている。
意外と掃除が得意なイタリアらしい綺麗な部屋。
そこにあったベッドにイタリアを下ろす。
『う…ん』と一言言ったものの、イタリアが起きる気配はなく。
そのまま、寝息をたてはじめる。
良かった、眠れて。
寝ている彼に布団をかけてから、俺は窓際の椅子に腰掛けた。
こいつの家はやはり暖かい。窓を開けていてももう寒くないのだから。
することもなく、手持ち無沙汰にそのまま何気なく部屋を見渡してみる。
ベッドサイドの小さなデスク。そこに、古い写真立て。
何故だろうか。吸いつけられるように、手をのばした。
そこには古い、絵が一枚。
「…これは…」
そのフレームのなかに描かれていた、子ども。
似ていた。面差しが、雰囲気が。
誰に?
俺に。
これは、これは…
これは、フランスのいっていた『アイツ』なんだろうか。
だとしたら、あまりにコレは俺に似ていた。
実は、イタリアには言っていないが、俺にはよく見る夢がある。
俺が、過去を覚えていないのは事実だ。
けれど、ときどき見る夢。
広がる草原。立ちすくんでいる子どもの俺に誰かが声をかけてくるのだ。
『ーーー!!』
なんといっているのか、それはわからない。ただ、それを聞いた子どもの俺はなぜかとても嬉しく。
返事をして振り向く。俺をよんだ相手の服はふわふわ揺れて、そして、
そして、夢は終わる。
本当は、今日このことをイタリアに言おうと思っていた。
だが…
「どいつぅー…」
思考をさえぎるような、間延びした声。
その音源を見遣れば、イタリアが寝返りを打つところだった。
だが、きっとそれはもう必要無いだろう。
イタリアは、それがどんなものかは解らないがきっと一歩踏み出した。
だから、もう必要無い。
夢のなかで俺を呼ぶのはだれなのか、とか
『アイツ』と俺はどういう繋がりがあるのか、とか
そんなことは、考え出せばきりがない。だから、
今、イタリアは幸せそうに眠っている。
それだけでもう、良いのだと思う。
俺も、『アイツ』に捕われるべきではないのだ。もう、『アイツ』はいない。
写真立てを、デスクに戻す。
一回伸びをしてから、椅子にもたれかかった。
こいつと一緒に、寝てしまおう。
そうすれば一緒に目覚めることが、できるだろうから。
やっと不眠症イタ話完結。くだらない内容の割に時間食ってこっちが寝不足だよ(泣)
私的には、神聖ローマはドイツになると信じてやみませんが、それでも、神聖ローマとドイツは違うと認識することが、恋の始まりだと主張したい