なぜ、おれたちは二人なんだろう、ときどきそう思うんだ。
ちらり、と俺が顔をあげたら、すこし離れたところで本を読んでいたヴェネツィアーノ…弟もちょうど顔をあげたところだった。
にこー、と間の抜けた笑顔が返る。それに向けてばか、と一言吐き捨て。
下を向いて雑誌を読むふりをしながら、もう一度弟の方をみたら、ちょっとしょんぼりしたみたいにあいつも下を向いて
いた。広げているのはお菓子の本。
なんで、おれたちは二人なんだろう。
俺達は二人ともイタリア、であって、それは疑いようもない事実。
二人ともあのローマのクソじじぃのとこで大きくなったわけだし。
「ねぇ、にいちゃん!これ、おいしそうじゃない?」
弟がぱたぱた、と走ってきて、俺の前にページを広げる。
そこに大きくうつってるのは、チョコレートケーキ。
「…ザッハトルテ?」
「そう、これね、オーストリアさんとこでみたことあるんだ!俺、これ本見ながらなら作れるよ多分!つくろうかなー。」
こいつと俺は、全く違う道を歩んできたから、違うとこも多い。
こいつはどうも、ゲルマンと仲がいいらしい、ムカつくけど。
うきうきと本を持って材料を確認している弟はもうさっきのしょんぼりは忘れたっぽい。
アホ、あほだこいつ。
なんで、ふたりだったんだろう。
独立を持ちかけたのは、俺の方で、だけど、正式には俺が言いだしたわけじゃない。
俺はこいつがゲルマンのとこにいたいならもうそれでいーだろ、とか思ってたけど。
『きみは弟君と一緒に独立すべきなんだ』
俺に初めて上司ができた日、スペインのとこから出てきた日、上司はこう言った。
『きみたちは同じイタリアなんだから』
俺達は、どうして二人だったんだろう。
それは、こいつが嫌だとか、そういうことではないし。
ただ、ただ、ほかの奴らは一人だったのに、なんで俺達は二人だったのかってこと。
同じイタリア、だけど俺達は違うもので。
だとしたら、俺たちは一体なんなんだ、とか。
「にいちゃん?」
声に慌てて顔をあげたら、弟がすぐ近くまで来ていた。
不安そうな顔。そういや、小さい頃もよくこいつはこんな顔してたっけ。
こいつは、人の感情に敏感だ。
「なんだよ。」
「…なんかね、つらそうだなっておもったから」
「はぁ?」
少し声を大きくしたら、首をすくめてごめんと一言。
弱虫すぎんだよ、ばーか。
「…雑誌、落ちてるしさ。」
その声に少し驚いて、ふと下をみる。床に落ちてる雑誌。
いつの間におとしたんだろう。
「…ちょっとぼけっとしてただけだよ、ちきしょうが」
「うー…そう?…あ、そうだ、あのね、ザッハトルテ兄ちゃんも食べる?作るよ?」
「ゲルマンの食い物なんか食いたくねぇよ。」
「そう…」
目の前の奴は今度は顔をくしゃり、と大袈裟に歪ませた。
それでも、にこり、と申し訳程度にわらってぱたぱたとキッチンへ走っていこうとする。
どうして、おれたちはおなじイタリアなんだろう。
こんな風に長い間違う環境で暮らし過ぎて、価値観まで違って、それでも。
「…なぁ、」
「ん、なに?」
「なんで俺達、二人なんだろうな」
俺から3メートルの位置。ダイニングとキッチンの境目。
そいつはふと立ち止まって、
「…わかんない。けどね。」
ちょっと考えるしぐさ。揺れるエプロン。
「俺ね、兄ちゃんいなかったら、寂しかったよ。今ここで生活してて寂しくないのは、兄ちゃんがいるからだから、それでいいよ。」
笑う。
違う、違う。もし俺がいなかったら、こいつはまだゲルマンの家にいたかもしれなくて、
そうしたら寂しくもなかったはず。だから、違う。けれど、
風がなんだか暖かかった。そういえば、春だ。
揺れた髪は俺と同じ色。
あぁもうなんか、考えるのめんどくせぇ。
「…変なこといってんなよ。」
「へ、へんじゃないもん、ほんとだもん!」
まぁ、ほんとだろうな、お前馬鹿だから、嘘つけないもんな。
なんか、気分いいし。俺もついでだから笑ってやった。
「やっぱり、俺の分もそのザッハなんとかつくれよ。ちょっと食いたい。」
「え、うん、わかったー」
笑った。こんどは満面の。
ぱたぱた、とはしっていく音がする。
俺達はなんでふたりなのか、俺にはわからなくて、
やっぱり俺とあいつは全くちがって、でも、なんかもうどうでもいーか。
弟の座っていたところに残されているのはお菓子の本。
…肝心の作り方の本忘れてんじゃんかよ、ばーか。
本を手にとって、少し考えてから、キスを落とす。
何もわからなくても、大丈夫。
こいつは、俺の大切な何かなのは間違いないから。
このカプね、実は大好き。冗談抜きに好き。同志いなくても好き。
しかし、文章力のなさが痛い…お粗末さまでした。楽しかったです!
総当たりカップリング祭りに献上させていただきました