呼吸の度に積もりゆく感情は


蒸し暑いような空気に飲み込まれそうになってゆるりとロマーノは目をあけた。午前2時。深夜のベッドルームは静かに暗闇に沈んでいる。軽く痛みを訴える頭をそれでもゆっくりともちあげようとして、右手が上に上がらないことに気づいた。首を回して右手のほうを見遣る。右手の上、自分のそれより少し明るい茶色の髪が乗っていた。

「フェリシアーノ…。」

ぽつり、ロマーノはその茶色の髪に、自分の弟に向かって声をかける。それに応じるように微かにその茶色は揺れた。

どうして自分たちは同じ国であるのに2人いるのか、そしてこんな風に一緒に眠っているのか。そんなことはわからない。ただ、なぜか自分たちは同じ国として今存在し、そして眠っている。ロマーノは小さく溜息をついて、それから天井を見上げた。見慣れた屋根についた小さなしみを5つ数えて、すぐにやめた。右手の上には弟の頭が乗ったまま。この調子だと、明日起きたときにはしびれてしばらくはつかいものにならないだろう。


時々、ロマーノは考えることがある。もしかしたら自分たちはまたいつか離れてしまうのではないか、と。ハンガリーとオーストリア、ドイツとプロイセン、それらの国もまた、昔は一つの国としてそこにいた。そして、今は離れ離れになって、それぞれがひとつの国をして生きている。だとしたら、今ひとつの居場所に2人いる自分たちもいずれは離れてしまうのかもしれない。いつかまた、刃を向け合うようになるのかもしれない。


午前2時。暗闇のなかの部屋は静かで、そして残酷なほどに思考を淀みの中へひきずっていく。すぅ、すぅ、と一定のリズムを保って吐き出される暖かな息。それが右腕にかかるたびに、ロマーノの中でおおきくなっていく感情がある。それがなんなのか、解らないほどロマーノは馬鹿ではなかった。しかし、認められるほど、大人でもなかっただけだ。蒸し暑い部屋の中で、一点、彼の息のあたるそこはそれでも不快には感じない。あぁ、

ロマーノは思う。もし、これから2人が離れるとして、それでもきっと今このとき彼と自分が2人一緒に暮らした事実は変わりはしない。たとえ刃を向け合うとしても。

閉じた目をゆっくりあけて、ロマーノはまた息をはく。

「ずっとここにいろよ。」

小さく右腕の上、彼の頭に語りかけ、そこだけわずかに自由な右手指先で彼をなぜる。ロマーノとよく似た顔の彼は、それに小さく身動きをして、

その動作が頷いたように見えたから、ロマーノは一人小さく笑ったのだった。


たとえ何が起こっても、きっと今の時間は消せやしないよ。