雨色賛歌
ザー…
「あ、」
雨だ、とイギリスが呟く。
空は先ほどから暗く濁っていたから予想はついていたが、とため息。
いざ降ってこられると、どこか憂鬱になった。もともと、雨はイギリスの家には多いのだから、尚更。
地面が少しずつ色を変えていく。雨戸ごしに微か雨音。
ザー…
「あぁ、もうそろそろ梅雨ですからね。」
日本が窓を閉めた。少し雨音は遠ざかり、室内に残されたのは雨の残響。
窓に手をかけたまま、日本は微笑む。
「仕方ないですよ。しばらくは雨続きです。」
雨が降り続いている。
窓の外は雨粒に曇り始めていた。紫陽花が雨に揺れる。
静かだ、とイギリスは不意に思う。
雨はいろんな音を溶かし込んでいくから。
ザー…
雨音は少しずつ大きくなっているようだ。
なにとはなく、イギリスは、日本のほうを振り返った。
テーブルの向こう側で日本はゆっくりと本のページを繰っている。伏せぎみの黒髪が揺れた。
雨に、日本はよく似合う、とぼんやり思う。黒髪だからかもしれない。
黒はたくさんのものを溶かし込む。雨と同じ。
ふと、イギリスの視線に気付いたのか、日本が読んでいた本から顔を上げた。
なんですか?と小さな問い。
慌ててイギリスは顔をまた窓に向ける。なんでもない、と慌てたようなイギリスの声に日本は笑った。
くすくす
雨音に混じる笑い声。
静かだ、とても静か。
「雨が上がったら、夏ですね。」
「そうだな。」
「夏になったら花火をしませんか?線香花火など、いいものですよ。」
「花火か…」
いいかもしれないな、と空を見ながら呟く。
窓越しに見た空は暗く濁って雨を吐き出し続けていた。
憂鬱な色、だけれど憎めない色だ。
日本がページをめくる音がまた小さく雨音に紛れて響く。
雨はいろんな思いを溶かし込んで降り続ける。ゆっくりと雨は部屋を包んで
あぁ、静かな部屋はあまりに居心地がよくて、ここから出れなくなりそうな程。
ザー…
世界を飲み込んでいくのは小さな雨音。
イギリスはゆっくりと目を閉じる。
この雨がやむまではただ、この静けさに沈んでいたかった。
ついに梅雨がきましたね…(笑)
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