サマータイム
「ドイツー!!」
大きな声にドイツが顔をあげると、外から窓越しにイタリアが机の上に花を乗せたところだった。驚くドイツの前に様々な色が広がる。赤、黄、紫。
「なんなんだ、これは。」
「お花だよ。」
「そういう意味ではなく、なぜこれをここに持ってきたかが知りたいんだ。」
「道端に咲いてたから。」
笑うイタリアの前で、ドイツは万年筆を捜す。愛用のそれは花に埋もれて見えなくなっていた。
「そんな、仕事ばっかして楽しいの?」
窓枠に顔をつけて彼が口を開く。夏の熱っぽい空気に髪が揺れて、まとわりつくように彼の首筋に張り付いた。その感覚がいやなのか、イタリアは何回も髪を払う。そんなことなら切ればいいのだ。ドイツの意見を彼はうまくはぐらかす。
「そんなことはない。」
早口で返したドイツの前で、イタリアは顔を巡らせている。彼の茶色の髪ごしに、青い青い空が見えた。そして雲。机の上には色とりどりの花。顔をもう一度室内に向けた彼は笑う。笑って、窓枠に手をついた。
背伸びして、ドイツの顔に口づけひとつ。
「じゃあ、夏をたのしもうよ。」
慌てたドイツの手が花を机の上から払いおとして、それを見てイタリアはまた軽く笑う。季節は夏を進んでいく。少し黒くなったイタリアの肌がまた太陽に映え、
「お前は仕事をしなくていいのか。」
悔し紛れに言い返したドイツのそんな意見もうまくはぐらかしながら、彼はこの夏も過ごすのだろう。
お前ら仕事しろよ。