夜の続きに、君
朝だ。朝が来ている。
瞼にうつる微かな光を掴むようにドイツは手を伸ばす。ゆるくシーツを払いのけながら伸びる手は、しかし時計を掴むその寸前で別の手によって握りこまれた。ドイツのものよりも一回り小さい手。それが柔らかくドイツの手を握る。
「イタリア。」
手の主の名を呼ぶと、彼は小さく笑った。茶色の髪がふわふわとシーツの波に揺れて、その合間から茶色の目が覗く。眠そうに、それでも悪戯な目で笑う彼は掴んだ手をそのまま口元へ運ぶ。ドイツが困ったように顔をしかめると、彼は笑った。
「今日は、日曜なのに。」
「しかし、もう朝だ。」
ドイツの答えに彼はまた笑う。真面目だねぇ、ドイツは。呟く彼の緩やかな吐息がドイツの指を撫でていく。うつむく彼の項辺りに赤い跡が見えて、ドイツはそのまま顔をそむけた。朝は起きるべきであり、こんな風に横になっているべきではない。
「日曜くらい、自由にしようよ。」
「しかし、」
「しかしも何もないよ。」
甘くあまく彼はささやく。伸ばされたままのドイツの指に彼は緩く舌を這わせた。人差し指から滑るように中指との隙間へ、それからめぐるように親指へ。息を詰まらせたドイツを見て、彼はくすくすと喉で笑った。
「ねぇ、ドイツ…。」
「…なんだ。」
ちゅ、ちゅ、と彼は親指をしゃぶっている。指から唾液が垂れて、シーツに染みをつけていく。その染みの横に昨日のなごりの染みが。あぁ、駄目だ。ドイツは思う。駄目だ、今は朝なのだから。こんなことをしていていい時間ではないのだから。
「ドイツは。考えが硬すぎるんだよ。」
「…どう、いう。」
「考えかたを変えるといいの。」
イタリアは体勢を変えると、ゆっくりとドイツの上に跨る格好になった。胸板の上を細い指が滑る。昨日のまま何も身につけずに跨る彼は騎上位すら彷彿とさせて、思わずドイツは顔を赤くする。そむけようと顔を動かすが、イタリアの手がそれを遮った。俺を見てよ。言われれば、ドイツに逆らう術はない。彼はゆっくりと体をドイツの上に這わせて、そして笑うのだ。
「朝は、新しく奇麗な始まりじゃあないんだよ。朝は夜の続きなの。夜の続き。だから、」
ナニしたっていい、でしょ?
笑う彼はドイツに口付けるのと、ドイツが体勢を入れ替えるのはほぼ同時だった。組みしかれたまま、彼は笑う。好きだよ、ドイツ。彼は呟いて、その言葉にドイツは頷いた。
夜の続きに何をしようか