夏の終わりといっても、まだまだ暑い。
だから、こんな提案が出てくるのである。
「神聖ローマ!!」
揺れる太陽。揺れる茶色。
逆らえないその笑顔。
「水遊びしにいこう!!」
夏の思い出
ぱちゃぱちゃと水の音がして、イタリアは水の中でバタ足。
森の中の小さな湖は、水が澄んでいて気持ちいいのだ
あんなバタ足して恥ずかしくないのだろうか、神聖ローマは一人呟く。
それとも、俺はまだ異性として見られてないのか??
「神聖ろーまぁ?入らないの??」
ふと気づけばそこにはイタリアの顔があって、神聖ローマはもうどうにも困ってしまう。
こっちだって暑くないわけではないのだ。むしろこの長いマントは暑いのだけれど。
年頃の彼にとって、これはあまりに拷問。
顔を赤くしてそれから白くして、うなるようにして出した結論一つ。
「あ、暑い訳ないだろ!!!!」
「そうなの?」
イタリアは疑うということを知らないわけで、何も言わずにそのまま水遊び再開。
どの位たっただろう。いい加減水遊びしているイタリアを神聖ローマが見るのも目をそらすのも苦痛になってきたころ。
イタリアが不意に口を開いた。
「ねぇねぇ、神聖ローマ、知ってる??」
「何だ?」
「この辺、お化けでるんだってぇ。」
お化け。神聖ローマは半ば疑いながら聞く。根拠のないことをうかつに信じてはいけません。
それは、オーストリアの言葉で、それを彼は遵守していたからだ。
イタリアの話によれば、この辺で白い幽霊が出るらしい。
ふわふわ浮いて、子どもをさらうらしい。
「ね、怖いでしょ?」
「それ、誰から聞いた?」
「フランス兄ちゃん。」
し、信用性ねぇー!!!!
神聖ローマは心の中で叫んでおいた。フランスのことは昔から好きじゃない。
イタリアと共にローマ帝国復興をしようとしたとき、一番邪魔したのはアイツだったからだ。
信用性の無さに呆れている彼の前で、イタリアは不安そうに口を開く。
「怖い、な。ねぇ、神聖ローマ…怖いから、一緒にもう帰ろう?」
そういえば暗くなってきていた。帰ることには賛成だし、頼られるのも悪くない。
服を着込んだイタリアの手を引いて、神聖ローマは薄暗い森を抜ける。
ひょう、と風が鳴ってそのたびにイタリアがきゃあ!と声を上げた。
「怖くないから黙っていろ!」
「だって、だってー。」
なんだかんだ言って、神聖ローマも怖くなってきていた。
イタリアは怖がるし、自分だって信じてなくてもお化けが怖くないわけではない。
遠くにオーストリアの屋敷が見えて、自然と2人は駆け足になる。
森を抜けそうだ、と思った、そのとき、だった。
「し、神聖ローマ!!!あ、あれ…!!」
「え?」
2人の視線の先に、白い、揺れる、影、が
「「ぎゃああああああああ!!!!!!!」」
屋敷に駆け込んだ2人が何を言ってもオーストリアは信用してくれず(話の出所がフランスという時点で信用はなかった)、
それでも2人は見たのだと、それは確信していて。
「なんか、涼しくなったね。」
「あぁ。本当だな。」
「結構いい思い出かもね。」
「え?」
「神聖ローマがね、手を引いてくれたから安心してたの。だから、いい思い出になったよ」
ありがとう、と頬におとされたキスでまた真っ赤になった神聖ローマと笑うイタリア。
夏の終わり近い、それはある一日のこと。
後日、2人の行った森から、ここのところ行方不明になっていたシーツが一枚、木に引っかかったまま発見された。
あとで変なこと吹き込んだ罰でフランスが責められればいい(笑)残暑お見舞いもうしあげます。