03,会いに来て
「…イタリア」
「なにーにいちゃん。」
「最近やせてねぇか、お前。」
俺の言葉にイタリアはちょい、とこちらを見てから、そんなことないよ、と笑う。
「心配症なんだよー。大丈夫だって。」
イタリアが料理をしている様を俺はぼんやりと後ろからながめる。
第二次大戦は連合国の勝利に終わった。
こいつは敗戦国。俺は戦勝国。
眺めている後ろ姿はやっぱ前より線が細い。
…前からほっせぇとは思っていたけどな。
今は、異様なほどだ。
「はいーにいちゃん!パスタできたよー!!!」
「おー。」
コイツの料理の腕はとかく俺も認めざるを得ないくらいに良いわけで。
運ばれてきたパスタは非常に良い出来。
戦前とかわっちゃいない。
けど、だ。
ちら、とイタリアを見て、
「イタリア。」
「なに?」
「お前は食わないのか?」
皿は、一人分。
「あー、うん、朝ごはんたべすぎたのー。」
言葉の前に一瞬目が泳いだ。
嘘、だな。
にこにこ笑いながらフライパンを洗いに戻る、
その手を思わずつかんでいた。
手首が細い。振り向いた顔からは笑みが消えている。
ふっくらしていた頬が、こけはじめていて
「その朝飯っていつ食った?ん?」
「…あさにきまってるじゃん。」
「いつの朝だ。」
台所が奇麗すぎると思っちゃいたんだ。
コイツはもともと整理整頓は得意で部屋は奇麗だったが、にしても奇麗すぎたんだ。
というよりも
生活感がない。
「…二日前、かな?」
「馬鹿かおまえ!!!」
こんな大声をイタリア相手には出したことがねぇからか、
つかんだ手首が驚いたようにびくっと震えて。
「国だって死ぬときゃ死ぬんだぞ!!お前馬鹿か!!!」
痩せたせいで大きさをましたような目が、うすら、涙に彩られる。
揺れる茶色の瞳。
「だって、だってね。」
ふらふらと、イタリアの空いているほうの手が俺の服をつかむ。
「俺、またドイツ裏切っちゃった。それで、ドイツ負けちゃった。
ねぇ俺、そろそろ嫌われるよね。もうあえないよね。俺もうあきれられたよね。」
声に微か、嗚咽がまじる
「いた…」
「それを考えると苦しくなるの、前にドイツは俺のご飯おいしいっていってくれたの。
それを思うとたべれないんだ。食べても吐いちゃうし。できたらまたドイツに会いたいよ。なんで兄ちゃんたちは
ドイツを占領してるの?俺を占領していいからドイツを離してよ!悪いのは俺だもん!!」
俺を見上げてくる目は、それでも俺なんか見てない。
いつの間にこいつは、こんなに、
『…ドイツは、連合国に無条件降伏する。』
あのとき、ドイツは手をあげて降服を宣言した。
『ひとつだけ願いがあるんだが、いいだろうか?』
血ぬれの金髪が、顔にかかるのも厭わずに、最後まであいつはまっすぐ前をみたままで。
『イタリアに会わせてほしい。』
嗚咽を上げ続けるイタリアの細い背中を見て思う。
会わせて、やるべきだったのだろう、と。
だが、あの時俺は会わせなかった。
いや、
『会わせたく、なかったんだよなぁ』
昔、なにかあるたびにぐずぐずいいながら俺のところに頼りにきたイタリアは、いつの間にか俺のところへは
来なくなった。
いつの間にか、あいつはドイツばかり追いかけていて、それで。
それは、嫉妬とは違うと思う。
いや、思いたい、か。
「ドイツー…あいにきてよ…」
明らかに細くなった腕を涙が伝う。
春だというのに、どことなく肌寒くて走る悪寒。
手放したくねぇな、と思った。純粋にただひたすらに純粋に。
後ろでは、あのゲルマンが好きだといっていたらしいパスタが冷めきる頃だろう。
どうやらこの三人の泥沼関係好きみたい。ドイツ愛なイタリア大好き。
ただ、兄ちゃんのキャラがいまだにつかめない。