幸せってこんな味




幸せとは、どんなことをいうんだろうか。

今は夕暮れになりかけた秋のひとときで、僕はここにいきなり訪ねてきた彼のためにコーヒーを淹れているところだ。本当は紅茶が飲みたかった僕の意見は彼の「嫌に決まってるだろう!!」という一言で打破された。僕がコーヒーを淹れている後ろで、彼はメイプルシロップは入れないでくれよ!とまた注文をつけてきた。溜息ひとつ。僕はブラックコーヒーを持って彼のところに向かう。彼は時にひどくわがままだ。

「はい、淹れたよ、コーヒー。」
「あぁ、ありがとう。しかしカナダはいつもどうしてそんな声が小さいんだい?そんなだとまた馬鹿にされるんだぞ!!」

余計なお世話だよ。小さくそう思って僕は苦笑いする。別に僕がこんな性格で生まれたのは好きでなったわけではないし、だから僕はアメリカがうらやましくてたまらない時もあったのだ。コーヒーを飲みながら小さく苦い、と呟いた彼のためにメイプルシロップ味のクッキーを出してあげた。彼は酷く子供っぽいところと、酷く残酷なところを持ち合わせていて、それはどちらも僕には縁遠いものだ。

「カナダはさみしくはないのかい?」

急に、彼が口を開いた。僕は驚いて、それからどうして?と聞き返す。彼はクッキーをくわえたまま、窓の外をみた。

「ほら、ここには街とかが少ないじゃないか。寂しくはないのかと思ったんだ。」

確かに。イギリスさんとアメリカとの間に挟まれて育ったような僕の家はお世辞にも発展しているとは言いがたくて、だから、僕の家は森ばかりだ。僕は自分用に淹れたメイプル入りのコーヒーをすすりながら、また苦笑いする。アメリカは、僕とは正反対だ。そして、きっと僕には手の届かない、

「でもだぞ!!」

ぼんやり思考にふけっていたら、いきなり彼が大声をあげたものだから、僕は驚いて顔をあげる。勢いで少しこぼれたコーヒー。それを拭こうとタオルに手を伸ばしたその手をアメリカにつかまれて、そして僕は今日初めて彼と目線を合わせることになった。

「この、広くて大きな君の家は、俺は嫌いじゃないんだ。」

そういって彼は綺麗に笑って、その笑顔があんまりにも綺麗だったから。
だから僕はなんだか嬉しくなってしまって、幸せとはこういうものなのかな、と小さく呟いてみてしまった。

こんな恋でもいいじゃない。