幕間4 あの日何があったか


朝日の中、イタリアは歩いていた。神聖ローマがいなくなって一年。あれから毎週日曜日には教会で祈りを捧げることに決めているのだ。オーストリアの家の外れにある、大きな教会。それは無人ではあるが、とても奇麗でよく神聖ローマと来ていた場所だった。イタリアは歩く。今日もいい天気だ。緑に萌えた道はいつも見慣れた景色。小さく歌う歌はハミング。とてもいい気分だったから、だから。

きづかなかった。気づけなかった。今日は少しだけこの場所の様子が違うことに。


「なにか…僕に…用…ですか?」
「いや、別に。」

教会の中、塞がれた入口。出られない自分。近づくたくさんの人影。

「僕、か、帰りたいです。」
「まぁ待てよ。俺たち、君には用事がないけど、君の飼い主さんに用事があるから。」
「オーストリア、さん、ですか?か、飼い主さんじゃなくて、あ、あのひとは、僕の、家族です、よ。それに、こ、ここには、いないです。」
「…家族でもなんでもいいけど、あいつ、ムカつくんだよなぁ。でも、なかなか勝てないからなぁ。」

伸びてくる手。嫌だ、いや。助けて、助けて。

「まぁ、君でうっぷん晴らししようかな。とか。」
「いや…助けて。いや…。」
「大分あいつも力落ちてきてるみたいだし、ここまで見張りも立てられなかったみたいだな。」
「助けて…やだ…やだよぉ!」

力が敵うわけは、無かった。

ステンドグラスから差し込む光。ほほ笑むマリア。大きな教会の入口は一つ。逃げられない。逃げられない。裂かれた白いエプロンと、引きちぎられた首の十字架。伸ばされた彼女の手は誰にも届かない。声がかれるまで叫んだ。痛い、痛い。声は届かない。ほほ笑むマリアは全てを見ていた。神に祈る幼い少女の叫びを、痛みにむせぶ様を、ただ見ていた。イタリアの茶色の目から一筋涙か零れて、それは地に落ち、

「汚れた…汚されちゃった…。」

微笑んでいるマリアの足元。揺れる白いスカートに、染み込んだ赤。

イタリアは、意識を、そして記憶を飛ばした。あぁ、こんなことなら、

「おんなになんか、うまれなければよかった。」