幕間 3 現実を目の当たりにして オーストリア
どうしたらよかったのでしょう。彼女の記憶が戻り初めている。どうしたらよかったのでしょう。自分にも良く解らないのです。私の部屋には数多くの写真立てが置いてあります。あぁ、そうです。私にとって、彼女たちは本当に大切なものでした。これ以上ないくらいに大切なものでした。できることならずっと守っていたかった。もちろんそんなことは彼女たちにとって良いことではないとは解っていても。
それでも、私は彼女たちの、特に可哀想なあの子の幸せを願ってしまう。彼女を守りきれなかったのは私の過失が大きいのですから。今日訪ねてきた彼女の姿を思い浮かべます。ふっくらとしてきた体つき、しなやかになった指先。女としての機能が彼女の中で動き始めているのはもう見た目にも明らか。原因も何とはなく解るのです。ドイツ、彼の存在が彼女の中で大きくなっているのはもう明らかで、だから、おそらく彼女にとっては女として生きる方が幸せなのだろうと、そんなことは解るのだけれど。
それでも、私はあと一歩が踏み出せないのです。そうやって逃げているのは解っていても、それでもあと一歩が踏み出せないのです。私は祈るしかないのです。彼女の幸せを。