共犯








「…イタリア、もう寝るか?」

「ん?…なんでー俺まだ眠くないよ?」


ならなんでそんな浮ついているんだ、フランスは少し顔をしかめる。
今は夜で、ここはベッドの上で、フランスの下にイタリア。
要するにソウイウことをしているわけで、しかしてイタリアの視線はふらり、と フランスか ら離れて空に舞う。普段、こうなると良くも悪くも集中するはずのイタリアに限 って、こんなことは初めてだった。
自然、フランスの口調に含まれるのは苛つきという刺。


「…ヤる気ねぇなら別にいいんだぞ」

「ここまできてやめらんないよ…ねぇ、それは、」


ふい、とそうこんなときだけイタリアの視線はフランスに固定され、


「兄ちゃんも、じゃない?」


左手を首にかけて、右手を下ろし、うかつにも反応してしまったフランス自身を 撫であげながらにこり、と笑むイタリアにフランスは小さく息をのむ。

あぁ、いつからこんな、

「淫乱になったかねぇ」

「さぁ…?仕込んだのは兄ちゃんでしょ?」



くすっと笑うその口を塞ぐようにキス。
イタリアは自然と目を閉じて受けいれる。慣れた動作。
元から乱れていた服などすぐに脱げてしまう。

ちゅく、と小さな音と共に唇が離れる頃には、すっかり二人とも素裸だった。下 の位置に顔があったせいで、飲み切れなかった唾液がイタリアへと落ちる。
それを舐めとる赤い舌。






こんな関係になったのはいつからだったか。そんなことはもう忘れてしまった。
ただ、フランスとイタリアはあまりに近くにいたから。ちょっと気晴らしに体を 重ねたら、都合がよかっただけだ。
遊びだった。お互いが本気になれる人を見つけるまで。







不意に、ふらり、イタリアの視線がまた揺れた。
それは一瞬。しかし、フランスが気付くには十分だった。苛々が募る。こんなこ とは今までないことだ。いらつきに任せて右胸の飾りに爪をたてる。ひっ、とイ タリアが小さく声をあげた。気にせずそのままぐりぐりと押し潰せば、やめて… と絞りだすような声。フランスを捉えたイタリアの目には涙が浮かんでいた。

「ぼーっとしてんのがわりぃんだよ」

右手はそのままで左の飾りも口に含む。上から漏れる小さな喘ぎ。あぁなんなの だろ うか、さっきの揺れた視線がフランスの頭から離れてくれない。
フランスは軽く顔を歪める。なんで、




こんなにいらつくんだ?




これは遊びのはずだった。お互いにとって便利な遊び。


「も…やめてってば…」

「やめていーならやめるけどなー」


ちらり、見たイタリア自身は既に限界間近。
あぁ、


「胸だけで感じるなんてエロいねぇ。」


笑えば違う、と小さな否定。もう余裕などないはず、なのにそれからまた、ふら り、と視線が揺れた。
苛々する。なんで俺だけ見ないんだよ。




この思いは、気付いてからじゃ遅すぎる




感情の赴くままに膝でイタリア自身をぐりぐりと刺激した。
ひぃいっとイタリアの声にならない叫びが響く。

「よそ見すんなよ」

「は…あ…ぁ…あ…かはっ」


顔を軽く歪ませながら快楽と痛みの境目をさ迷うイタリアはどうやら声もでない らしい。
涙ぐんだ目がフランスを捕らえる。
透明な液体に彩られた奇麗な茶色は確かにただ一人を映し、
あぁ、それでいい、それで


全て任せてしまえば良いそれなら俺だって


フランスは優しくイタリアに口づけながら膝を止める。イくにイけず震えてい たイタリア自身を軽く扱いてやれば、キスしている口からくぐもった喘ぎがもれ る。フランスの手に濡れた感触。

唇を離すと、まだ快楽に酔ったままのイタリアと目があった。
うつろにフランスを見つめている。

愛しいと思った。ただ純粋に。


気付いてしまう、自分の胸にくすぶる想いに。
これは遊びのはず、いや、はずだった。お互い本気の人を見つけるまでの。


遊びのはず、だったのに。





「…ねぇ、にい、ちゃん」

「なんだ?」

「お…れ…はぁ…いいたいことがね、あるの」




駄目だ、気付いてしまう。
いや、フランスは思う。気付いていた、きっと前から。体だけじゃ、満た されなくて、欲しかったのは、きっと違う何か。




「…おれ、兄ちゃんのことが」





耳元で零された秘密はあまりに無防備。



あぁ、





もう、手遅れ。