イタリアが嫉妬に狂ってますが、そんなイタリアでも許せる奇特な方だけどうぞ
この想いの、成れの果て
ふと、ドイツは目をあけた。
薄暗い。いや、それは何も今に始まったことではない。いつもここはこうだ。
窓も何もないこの部屋はいつだって薄暗い。
ここに来てから、どの位たつのだろう。
解らない。縛られた手足が硬直して痛みを訴え始めている。
時間はわからない。ただ、体内時計でははかりきれないほどの時間がたったということだけははっきりしていた。
『ねぇ、ドイツ、話があるんだけど、俺の家きてくれないかなぁ。』
いやに綺麗な笑みを浮かべたイタリアにそう言って家に誘われたのが、ここに来た最初。
最近イタリアはとても機嫌が悪そうだったから(笑顔が無かったわけではない。ただ、笑顔ではいろいろな感情が隠しきれてはいなかったのだ)だから、
こんな楽しそうな笑顔は久しぶりだった。だから、ドイツは快くその誘いにのった。始まりは、ただそれだけのことだったのに
(今は、いつなのだろうか)
ぼんやりそんなことを思いながら、顔を上げる。
もちろん、解るわけもない。イタリアの家はよく言えば時間に対しおおらかであり、つまりは時間にルーズだ。
だからだろうか(否、多分それ以外にも理由はあろうが)ここの時計は三時をさしたまま止まっており、カレンダーは去年のもの。
あの日、イタリアの出したエスプレッソを飲んだあたりから記憶がない。
気がついたら、この部屋の中。
日付は三日ほど数えたあたりで、解らなくなった。
ただ、何も変わらない景色を眺めるばかり。ここは、時間から隔絶されている。
「どいつ?どいつ、起きたの?」
不意に、静かな部屋に響いたのは高めのテノール。動かない手足に苦戦しながら、なんとか扉の方に体を向けると、そこに、見慣れた茶色が揺れていた。
パチンと音がして、急に明るくなる視界。
眩しさに目がくらむ。眩しさでしかめた目線の向こうでイタリアが笑ったのが微かにわかる。
「おはよーう。よく眠れた?」
にっこり笑って言われても、どうしようもなく、ドイツは少し睨むようにして訴える。
口にはタオルを噛まされているのだ、答えようがない。
イタリアはその視線に少し困った顔をして、ちょい、と首をかしげる。
無邪気というのは恐ろしい、そう、いまだって彼はこんなにも普段どおり。
「タオル、苦しい?」
たどたどしい問いかけ。ドイツが小さく頷くと、イタリアの手が伸びた。
タオルの結び目を解く。
「…はい。」
「…っげほっげほげほ!」
急に肺が多くの空気に触れたせいだろうか、思わずむせこんでしまう。
どう?とイタリアの声。答えようとして、声が上手くでないことに気づいた。
タオルで塞がれ続けていた口内は、水分、食料共に十分与えられていたとはいえ、乾ききっていたらしい。
また一回睨むと、イタリアがペットボトルを差し出してきた。
飲む?と一言。
「…あぁ。」
瞬間、にっこり笑った目の前の彼は、口に水を含む。
そのまま、ドイツに口付けた。
ー!
驚いたように目を見開くドイツの向こうで、イタリアは楽しそうに笑う。
どうにもできずに、ドイツが口内に流し込まれた水を嚥下したのを見届けて、イタリアは漸く口を離した。
「はい、よくできましたー。」
無理な体勢で流し込まれたからかもしれない。
軽くむせるドイツに向かって、イタリアはにこにこと笑い続ける。
「少しひげが伸びてきちゃったね、ドイツ。そらなきゃいけないね。あぁそうだ、お風呂も入らないといけないよね。
大丈夫だよ。俺が手伝ってあげるから。あぁ、それとね。」
「どうして、」
イタリアの口調はあくまで優しい。
自分の頬に触れるイタリアの指はあまりにも慈しみに満ちていて、まるで日常生活を続けているようだ。
縛られた手足が場違いな痛みを訴えて、何かがおかしい、いや、この空間は初めからおかしいのだ。
「どうして、こんなことをする。」
「どうしてって、そんなの決まってるでしょ?」
日常のなか、外の世界とも、時間とも隔絶された、小さな空間。
「ドイツが、日本ばっかみるから、さぁ。」
日本。
その言葉が出た、その瞬間、ドイツの顔が一瞬ゆがむ。
それはほんの一瞬で、だけれどイタリアがそのことに気づくには十分すぎるほど。
イタリアの笑顔がふと消えて、一瞬浮かぶのは暗い表情。
ほら、やっぱり。
「ドイツは全部俺のだったのに。なんであんなあとからきた子にとられなきゃいけないの?わけわかんない。」
「…お前のことも、大切におもっている。」
「『も』とかやだ。俺、二番とかいや。俺は全部欲しいもん。ねぇ、俺さぁ、ほんとは嫌だったんだ。
なんで俺とドイツだけでいいはずの枢軸にあんな遠い国もいれなきゃ駄目なの?べつに良かったじゃん。ねぇ。」
「黙れ!」
強い口調。
イタリアがびくっと反応して、声がやむ。
「…お前が、何をしたいかは知らないが、仲間としてやってきた日本に対して、そんな言葉を使うな。
それは、俺が許さない。」
なんとか起こした体で、イタリアの方を見やる。
そこに、笑顔は無かった。ただ、睨むように、それでいて悲しそうにこちらを見る。
「うるさいよ。」
吐き出すような、彼の言葉。
「うるさいよ、そんなこといわないでよ。」
いやだ、うめくように呟きながら、目の前の彼は耳を押さえてうずくまる。
さすがに、異常すぎるその行動にドイツが声をかける、それをもまたず、イタリアはうめく
「いやだよ、いや、ドイツは、俺のなんだもん、いや、日本も確かに仲間だけど、でもこれはゆずらない。
違う、ちがうもん。ねぇ、ドイツ、」
顔が上がる。その目は、ここにあってここにない。
ぼんやりとした目のまま、彼は呟く。
「ドイツ、は、日本、が、すき、なの?」
答えようとして、それでも何かに阻害されたように、ドイツの声はでない。
違う、といえば、多分ここから出ることも可能なのだ、と頭のどこかでそう思う。
なのに、声はでないのだ。
黙ったままの自分に向かって、イタリアは困ったように微笑む。
「ねぇ、きっと、ドイツはオカシクなってるんだよ、ねぇ、ほら、日本ってさ、俺たちとは違うから、だから気になっちゃうんだよ。
ねぇ、だからさ、ここにいたら、きっと元にもどるよ、ね。」
イタリアは、駄々をこねているだけなのだ。不意に、ドイツは気づく。
ただ、なにもかもを欲しがっている子どもと同じなのだ。それだけ。
日本のことなんか、忘れてよ。
軽く頬に口付けながら、イタリアが零した台詞をドイツはどこか遠くに聞く。
哀れだ、と不意にそう思った。
うちのイタリアの半分は独占欲でできています。
初め、この一言のためにタイトルをバファリンにしようかと思った
樹とのメールで盛り上がったネタだったり。