過ぎし春に


春がすぎる。

今年もまたこの季節が来た。季節の変わり目は好きじゃない。いつのまにか、見ていた花が散っていた。いつのまにか、太陽は乱暴な光を放つようになっていた。嫌いだった。夏も、春が終わるのも。イタリアは軽く伸びをして、そのまま後ろに倒れる。空。淡く色づいていた春とは違って、そこはもう青々とした光を放っていた。顔をしかめる。あぁ、いやだ。

「どうして空を睨んでいるのですか?」

後ろから声がする。日本。いつも飄々とした表情の彼は、機嫌の悪そうなイタリアをみても、表情を変えずに笑った。

「睨んでないよ。」
「睨んでましたよ。」

日本の手がゆっくりとイタリアの頭に触れ、そして撫ぜていく。イタリアの目に茶色の髪が掛かって、彼は目をきゅ、と閉じた。日本は笑っている。なんだか少し悔しい気持ち。

「春がすきなのに、終わるんだもん。」
「しかたないですよ、季節の流れです。」
「でも、嫌なんだもん。」

日本は笑った。ゆっくり、髪を撫ぜる手が下りてくる。顎を捉えて、微かに上を向かせて、暑い、暑い。もう春は終わりが近く、そして夏がやってくる。空はもう霞みががっていなくて、あぁ夏は嫌いなのに。

日本の唇が、イタリアの目に落ちた。

「これで機嫌を直してくださいよ。」

触れられたまぶたは微かに冷えた何かを帯びているようで、それでいて熱いようで、ぼんやりとしたまま、イタリアは頷く。どこからか花びらが舞ってきた。春は終わりが近い。


夏が君と一緒にやってくる。 拍手ありがとうございました。