壊れモノの恋







「あ、ロシアさんみつけたー!!!」

「…イタリア君?」



珍しいな、と思う。
今は戦時中。この戦争はドイツ君が僕に勝手に宣戦布告してきたことで、戦況は一転した。
僕に戦争ふっかけて利点なんかないって頭のいいドイツ君ならわかっていると思う。
どうせあのちょっと図にのりすぎてる上司が無理やり仕掛けたんだろう。


でも、仕掛けたのは、そっち。





「珍しいね。僕、もう君は降参するんじゃないかな?って思ってたのに。」




僕が参戦したことで、枢軸国が不利になったのは誰の目にもあきらか。
そして、もともとそんなに力のないイタリア君がもうそろそろ限界だってのも。



揶揄するように言ってみたのに、イタリア君はにこにこと笑ったまま。



「うんー。ほんとにロシアさんって強いよね!!俺、そろそろ降参かなー?」



さすがの僕でも、これにはちょっと怪訝顔。降参直前にこんなにこにこだなんて、気でも狂ったかな。


「ねぇ、ロシアさん!!一個きいていい?」


ちょい、と僕から見てもかわいい動作で首をかしげたイタリア君は、でもいつもと違うオーラ。
なんだろう、これ。


「…嫌っていったらどうなるのかな?」

「嫌っていうの?ロシアさんってそんな酷いひとなの?俺は馬鹿だから聞きたいことがあるの。 嫌じゃないよね?」


ちょっと、ありえないことが起こってるかもしれない。
こんな、なんでこんな弱い国にぼくは。


「…なにがききたいの?」

「…あのね、」


一瞬、そう後一瞬僕が遅れていたら、危なかったかも。
とっさに身をよけた僕の真横を掠めるように何かが飛んでいく。
微か硝煙の香り。


「ドイツを、いじめたの、ロシアさんなの?」


目の前20m。手に小銃を構えた、イタリアくん、が。



これは、ちょっと予想していなかった、かな


「…その前に、僕も一つ聞いていいかな。」

「んーいいよ。」


まさか、こんなもう降参する直前の国にこんなことされるなんて思ってなかった。


「僕は、この陣営に、見張りを置いたと思ってたんだけど、どうして君がここにいるのかな?」






にこにこにこにこ





どうしてぼくは、こんなに焦っているんだろう。






「だって、あのひとたち、ドイツを馬鹿にするんだもん。」





まだ微かに硝煙の香り。さっきした銃声は、近くで撃ち合いでもあったんだろうと思っていたんだけど。
イタリアくんは、笑顔を崩さない。
どうしてぼくは、こんなに。





怖い、のか。







「こういうのきゅうそねこをかむ、っていうんだって。日本におしえてもらったの。」







にこにこ笑うイタリア君の真意は読めない。
けれど、なんとなく、解る気がした。だってぼくだって




「ねぇイタリア君?」


「なに?」




「君は、僕と似てるね。」





君がドイツ君に執着しているように、この居場所に執着しているんだ。









「…シアさん!!ロシアさん!!大丈夫ですか!?」






リトアニアの声が、する。

イタリア君ははた、と動きを止めて声のしたほうを見やった。
どうするのかな、と思ってみてると、こっちをちらり、と一瞥して、それから構えていた小銃を下ろした。



「…イタリア君。」

「んー?」

「ドイツ君をいじめてるのは、僕だよ。撃たなくていいの?」




一瞬、イタリア君の表情が崩れた。表情が、消える。

うん、そっちが本当の君でしょう?
くすくす、こぼれたのは笑い声。もう怖さは消えていた。

やっぱり、やっぱり君は、



「うたないよー…もう降参だから。」



僕に似てるね。




一瞬のちに、また笑顔に戻ってするり、と逃げていくイタリア君の姿をぼんやりと見る。
追うつもりはなかった。この勝負はおあいこだから。





「ロシアさん!!銃声がしたから来たんですけど…外の見張りは全部撃たれちゃってるし、何があったんですか?本当に大丈夫でしたか?」

「うん、大丈夫だよ。リトアニア。」


慌てて走ってきたんだろう、乱れた癖っ毛をくしゃくしゃとかきまぜたら『やめてください』と顔をしかめられた。


「あの、イタリアさんの姿を見たって人がいるんですけど…一応追いかけますか?」

「いや、いいよ。」


僕の答えに怪訝そうな顔をしたリトアニアに顔を向けて。
さきほどくしゃくしゃにした髪をこんどは手櫛で整える。


困ったように笑うリトアニア。




ねぇ、聞いて。僕はさっきのイタリア君の行動が理解できる気がするんだ。
結構昔、オーストリアの力が弱まって来たくらいの時に、実はイタリア君をちらりとみたことがある。
そのとき、イタリアくんの周りにはたくさんの人がいた。けれど、その誰にもあのこは執着してなかった。
あのこはひとりじゃなかった。でも、そこにあのこの本当にいて欲しい人はいなかったんだね。


そしていま、イタリアくんはみつけたんだ。



執着できるひとを。





動きと止めている僕をリトアニアが手持ち無沙汰に見ていたから、にっこりとほほ笑んでみた。
何を思ったのか、すいません、と謝罪のことば。

うーん、怒ってないんだけどな。




「帰ろっか、リトアニア。」

「え、あ、はい!!そうですね!!」



今の僕は幸せものだ。帰る場所がある。
見上げたそらは、きれいな青。



この場所がなくなるってわかったとき、僕はどうなるだろう。
すこし考えてから首を振った。後ろから、リトアニアが走ってくる足音がする。




どうなるかわからないけれど、




今回のイタリア君並かそれ以上に狂っちゃうことだけは確かだろうね。








イタリアの本当に居てほしいひとってのは、神聖ローマってことで。
この二人のコンビ結構好き。