夜中にアイスを買いに行った

夜中にアイスを買いに行った。それは、同居する恋人の可愛いわがままで、彼はベッドの上でただ一言こういったのだ。

「アイス食べたい。買ってきてよ。」

あぁ、変なことだ。ただ、その一言で、自分はわざわざコンビニまでアイスを買いに来ているのだ。店員が怪訝そうにこちらをみている。そうだろう。こんな夜中に大の男が一人、アイスのクーラーボックスの前で立ちすくんでいたら誰だって不審に思うだろう。わかってはいる。が、やらなくてはならない。いや、別に本当はやらなくても良かったのかもな、とふと思う。イタリアは酷くきまぐれで、どこかつかめないところがある。そんな猫のような気まぐれさに惹かれてしまい、告白したのは数ヶ月前。OKをもらえたのはいいものの、それからというもの、なぜかイタリアの要求に反発できない。きまぐれにまたどこかに行ってしまうような気がするからかもしれない。彼はどこかそういう雰囲気に包まれている。誰にでも気楽に話せることは良いところではあるが、どこかへ飛んでいってしまうのでは、という不安を滲ませる。

「アイス、買ってきたぞ。」

何が好きかわからなかったから、適当に買ったら酷い量になってしまった。仕方ないので、それを全部もって、ベッドまでいく。雑誌を読んでいた彼はその声に顔を上げた。目がくりっと大きな彼はまるで猫だ。そう、きっと猫なのだ。

「本当に買ってきたんだ。」
「…頼んだだろう。」
「まぁね。」

彼はくすっと笑うと、袋の中をあさる。あさって、あさって、呟いた。

「チョコがない。」
「は?」
「チョコアイスがない。俺、チョコが食べたかったのに。チョコがないならもういいや。」

放り出された袋を見て、少し憤慨した。いくらなんでもそれはないんじゃないだろうか。猫のように気まぐれで、それでもいくらなんでもこれは、

「イタリア!!!」

叫んだ声は自分でも驚くほど大きかった。驚いたような彼の目。振り向く彼の手を握る。彼がきゃあと声を上げた。無視をする。雑誌が下に落ちる。かまうものか。そのまま、ベッドに押し倒した。

「気まぐれもほどほどにしろよ。」

睨むように吐き捨てる。しんとした空気、そして彼は。
彼は、笑った。

あっけに取られた俺の前で、彼はくすくすと笑って、思わずまた何か言ってやろうと口を開いた自分のその口元に、彼の指がつけられる。黙って。彼の声。

「ねぇ、ドイツ、今のすっごいかっこよかった。」

かぁ、と自分の顔が熱くなるのが解る。それを見て、彼はまた笑った、猫だ、こいつはきっと猫なんだ。床でアイスが溶け始めている。それも気にせず彼は言った。

「キスしてよ。」

あぁ、逆らえない。




気まぐれイタリアまるで猫。