赤のハートに恋をした
この世界はとてもとてもとても広くて、そして世界の歴史は途方もなく長くて、その中で俺とドイツが同じ国という存在に生まれて、そして仲良くなれるなんてどれほど低い確率なんだろう。きっと天文学的、とかいう数字になるに違いないんだ。俺ね、思うんだよドイツと俺がであったのは必然だよ。これは運命だよ。目の前には白い紙。俺は羽ペンをゆらゆら揺らして、そしてその紙に書く。ドイツ。大好きな名前。
イタリアには爪を噛む癖があった。苛々したとき、考え事をしているとき、彼の親指は口元に向かった。前歯で爪を噛み砕く。彼の指は親指だけ不自然に深爪だった。
羽ペンをゆらゆら揺らして、もう少し考える。そして、ドイツ、と書かれたその少し右にペンをはしらせた。イタリア、俺の名前。二つが並ぶ。
考え事をしだすと自分の世界に入りがちになる彼は一度酷い深爪をしてしまったことがある。噛みすぎた親指の爪の隙間から真紅の血が流れる、ドイツはそれを丁重に手当てした。消毒をして、バンドエイドを貼る。イタリアはその指を見つめていた。
「ドイツ、切っちゃったの。」
次の日、ドイツのところにイタリアがやってきた。笑顔でたたずむ彼の右手にしたたる真紅。親指が、骨が見えるほどにえぐられ、切られていた、裂けたような傷口から見える肉。腕を伝う赤。それを見たドイツは何も言わずに医者を呼んだ。それ以来、イタリアは指の怪我をしていない。
「あ・・・ぃつ…。」
ちくり、と指に痛みが走った。慌てて口から親指を離す。俺の目の前で、汚くえぐれた指の端から赤い血が滲んだ。噛みすぎちゃった。滲んだ血が指をつたう。つたう。
ぽたり。
どいつ、と、いたりあ。ふたつの名前の真ん中に、真紅が落ちる。あか、あか、あか。丸い赤。そっと羽ペンを握ってその円の上を軽く押す。
「あは、やっぱり俺たちって運命のめぐり合いだよ。」
ドイツ、はぁと、俺。赤い、あかいハート。血で描いたハート。親指を舐める。血の味。向こうにドイツの金色が見える。あぁ、俺のものになればいいのに。
紙を胸に抱く。微かに鉄さびの匂いがした。
赤いハートで結ばれた二人。