シエスタをしよう




「…タリア!イタリア!いないのか?」


日差しが暖かい。ここは、イタリアの家。
ドイツの手には一本の絵筆。そう、
昨日、訓練に来ていたイタリアが忘れていったものは、よく使い込まれた絵筆だった。
イタリアは絵を描くのが好きだから、持ち歩いているのかもしれない。

今日は、日曜日。休みだ。
休み明けにこれはかえせばいいと、そうもドイツは思った、のだけれど。
あぁ



今日はこんなに晴れていて、
空は青くてあまりにきれい。
暖かな風に惹かれるように、
気づけばここまできていた。


「…留守か?」


昼下がりの空気が暖かくドイツの上に降りてくる。
自分の家とイタリアの家はそれほど離れていないはずだが、それでもこれほどまでに違うのか。
そうドイツはひとりごちて

上着のボタンを一つはずして、静まりかえったままのドアを直視。

何かに惹かれるようにきらきら光を反射して光る、ドアノブを、まわして。


カチャリ。



「…開いた…」


なんて無用心なんだ、と溜息一つ。
これでは誰が入っても解らないだろうに。

そこで少し躊躇して、だけれど、
暖かな日差しとゆるい空気は、どこか人を解放的にさせるもの。
ドイツはそのまま室内に足を踏み入れた。

室内はしん、と静まっていた。
ドイツは黙ったまま足を進める。
玄関口から入り、昼ご飯の残りだろうパスタがテーブルにあるままのキッチンを抜けて、
その先の、リビングへ。



リビングのドアをあける。とたん、眩しい光。
目を細める。眩しい理由はすぐ解った。ドアのちょうど反対側に大きな窓。
窓は開け放たれて、カーテンは揺らめき、暖かな空気を室内に招き入れて。

その、空気の中、フローリングの上、窓際の壁のところに


「あぁ、」


白いまるくなった、ブランケット。


「ここにいたのか」


その端から、微か見えたのは見覚えのある焦げ茶。

イタリアはあぁ見えて綺麗好きだ。だから部屋もよく整頓されている。
その綺麗な部屋のなか、白いくしゃくしゃのブランケットだけが妙に場違い。


ドイツはそれを見てふと笑い。
この不完全さがイタリアらしいと思う。そして、妙にそこが愛しいと。
ふとかがんで、はみ出た焦げ茶のその中の顔を覗き込んで。


「よく、ねているな。全く。」


鍵くらいかかておけ。
呟くドイツの目の前、イタリアの髪を、吹き込む風が揺らした。ふと、イタリアが寝返りを打つ。
慌てたドイツは体をおこして、でもイタリアは起きることはなく。
すうすうと寝息。

寝返りのせいでイタリアは上向きになっていた。
乱れた髪から見える頬。



いつもなら、



いつもなら、ドイツはけしてこんなことはしないだろう。けれど、

ここはとても暖かくゆるみ、
こんなに今日は晴れていて。
暖かな空気は人を解放的に、


だから、か。


再びかがんだドイツは、手をついてそっと見え隠れするイタリアの頬にキスを一つ。
してから恥ずかしくなるのはご愛嬌。
ぱっと顔を上げようとして、



その手を、掴まれた。



「…おはよ。」

起き上がるイタリアに、ドイツは半分パニック。
だってキス、を。キスを俺は。

「…っいつから起きていた…!?」


そんなこと全く気に介さないイタリアは眠いのか、こしこしと目を擦る。
うん…と小さくあくびして。


「ドイツのキスで起きたの。ねぇ、なんかね」


あくびのせいで、目は微かに濡れて、春の光にきらきらと


「キスでおきるっておひめさまみたい」


春は、そうこんなにもあたたかい。


顔を真っ赤にして俯いてしまったドイツを見てイタリアはくすくす笑い。
それからもう一度眠そうにあくび。


「ねぇ、ドイツ、一緒に昼寝の続きしようよ」

「は?」

「まだ、シエスタの時間だもん」


そういうイタリアはもう既にブランケットに包まっていて。
ドイツの服の端を掴み。

「それに、こんな暖かいんだから」


駄目だ、と一言言おうとして、その言葉をドイツはのみこんだ。
あぁそうだ、今日はこんなに暖かい。

吹き込む風は、春の匂いがした。
休みの日くらい、昼寝もいいのかもしれない。

イタリアの隣、壁を背もたれにしてドイツは座り込む。
白いブランケットはずりずりと動いてきて、ドイツのひざに頭を乗せる形で満足したようで。
膝が重い。けれど今のドイツには注意するのも億劫。

なぜって不覚にもまぶたが、重いから。


「さっきね、しあわせなゆめをみていたきがするんだ」

「…そうか」

「ねぇ、どいつ」

す、とイタリアが顔をドイツへと向ける。
視線が絡んだ。

「いっしょにゆめのつづき、みれたらいいね。」


ねむりは、そうすぐそこ。

「あぁ」


みれたら、いいかもな。






ひさびさに甘い。幸せな2人も好き。