女の子は何でできてるの?





女の子はお砂糖でできている



そんなセリフは誰がいったんだったか。

さしこむ夕日に気づけばもう夕暮れ。フランスはため息ひとつはいてタバコをも み消した。



女の子は、お砂糖とあとなんかとそれと素敵なものでできている。



それなら、こいつも似たようなもんだ。


フランスの視線の先、夕日さしこむ部屋の片隅でねむっているのは弟であるイタ リアだった。
焦げちゃの髪を夕日に染めて、眠るイタリアはいうなれば甘い菓子のようだとふ と思う。

それから苦笑。


あぁ、馬鹿げてんな。





最近、イタリアが家に来る回数が増えた、とフランスは確信していた。
前はたまに来ていただけだったのに、最近は一週間に一度くらいのペース。

特に何をするでもない。
ただ、行く先の見えないくだらない話をして、昼飯はどっちかが作って、
夕刻になればイタリアは帰るときもあるし、こんな風に寝てしまうときもある。


別に、それはフランスにとって迷惑というわけではなかった。
ふらり、と何のアポもなくやってくるイタリアにいつもフランスが付き合ってい られるわけではなかった。
フランスが忙しいとき、イタリアは構って欲しがるわけでもなくそこにいて来た ときと同じように、 ふらりといつのまにかいなくなっている。
ただ、そこにいるだけなのだ。満足するまで。

何もせずここにいてなにが楽しいんだ、とフランスは一度聞いたことがある。
その時イタリアは笑ったままで何も言わなかった。
だから何も解らない。だからイタリアはまた今日もここにいる。



「う…ぅう…」

「お、おきたか?」


もぞもぞと寝ていたイタリアが動く。ゆっくりと体を起こした雰囲気はまだまど ろみがのこっていた。
すこし癖のついた茶色。頬に残るのはフローリングの跡。



「んだけ寝てりゃあ満足したか?」

「…あんまり。」

「まだねみぃんなら寝てろ。」

「もうねむくはないよ。」

「…じゃあ何が満足してないんだよ。」

「…なんとなく、が。」

「することないなら帰るか?」

「…することなきゃいちゃだめなの?」



今日は、帰る気はないらしい。


そう気づいたフランスは小さく溜息。
別に、イタリアがいるのは面倒でも、邪魔でもない。
たまにぴったりととなりに張り付くみたいにすわってくることもあるが、それだ って別に どうということはない。
ただ、疑問がひとつ。



「どうして最近お前はこんなに俺んちにこだわるんだ?」



おんなのこは、なにでできているの?
おんなのこは、ね。



「…まだ、兄ちゃんにはおしえてあげないー。」



寝起き雰囲気のままのイタリアが頭をあげる。
それから、少し、考えるような素振り。そして


「それと、俺は兄ちゃんちにこだわっているわけじゃないよ。俺はね、」



癖のついた髪を掻きあげてうすら、とほほ笑むイタリアはフランスが思う以上に 艶かしい。

思わずフランスは息をのんで。



あぁ、思い出した。このセリフはイギリスの野郎のとこの童謡だ。

おんなのこは、お砂糖と、すてきなものと、それから、




「俺は、にいちゃんにこだわってるの」




スパイスで、出来てる。


イタリアは鼻歌をうたいながらキッチンへむかって歩き出す。
夕飯かもしれない、とフランスは思った。

そとはすっかり夜に支配されて月がいつの間にか明るい。


先ほどのセリフに動揺した自分にフランスは舌打ち。
違う。これは嫌悪でもまして期待でもなんでもなくて。そう、これは


「ちょっとスパイスがキツすぎただけだ。」


自分の中の名前のつけられない思いはそれでふたをすることにした。