*注意*
この小説はちょっと危険なので、注意してください。
・イタリアが本格的に壊れています。
・直接表現は出てきませんが、死ネタです。
・結構グロいです。
よろしければ、スクロール。
自己責任でどうぞ。
ビーフシチューをつくりましょう。
お肉にはきちんと塩コショウ。
風味をつける玉ねぎ炒めて、
じゃがいも、にんじん、トマトを入れて。
デザートには美味しいゼリーを。
おいしいシチューをつくりましょう。
貴方のための、ビーフシチュー。
あなたのためのビーフシチュー
その異変に気づいたのはフランスが最初だった。
それは、些細なことだ。たぶん、彼らを気hにかけていたフランスでなければ気付かなかった。
きっかけは単純だ。ドイツを見かけない。
この一週間くらい、ドイツを見かけないのだ。そして、イタリアの姿もない。
どちらかといえばアクティブなタイプに入るだろうあの二人の姿を見かけないことは、特筆すべきことだ。
ただ、他国は自分のことで忙しいから解らないかもしれないが。
フランスはぼんやりと家を見上げる。
ここのところ、イタリアとドイツの様子がおかしいということにもフランスは気づいていた。
ただ、幸せそうにしていただけだった二人の様子がなんだかぎくしゃくしている。
それは、色恋沙汰の問題ではない、とフランスは踏んだ。そんな浮ついたものじゃない。もっと根源的なもの。
それでも二人はお互いが労わりあっているように見えたから、だから何もいわなかったのだが。
時間ばかりはいつでも穏やかにすぎていくものだ。
歪みを内包しながらすぎる時間。ある日、ふとフランスは気づく。
二人が、いない。
それは、あまりに奇麗な消え方だった。はじめから二人とも存在していなかったかのような、そんな奇麗な消え方だった。
んでもって、だ。
フランスは小さく呟きながらイタリアの家の窓を見る。
先ほどついに意を決してイタリアの家を訪れたフランスを迎えたのは意外な光景だった。
煌々とともる明かり。
本当はここにはいないだろうと思っていた。当てが外れ、感じたのは確かな安堵と微かな不安。
ふわり、ふと辺りに漂う香りに気づく。
こくのある香り。ビーフシチュー。
あぁ、とフランスはひとりごちた。
俺の杞憂だったのかもしれない。そう、たかが一週間姿を見なかっただけなのだ。
たかが、一週間。
辺りに漂うビーフシチューの香り。
たかが、一週間。なのに、何故こんなに俺は不安なんだろう。
ここまできたのだから、とその言葉に不安を押し込めてフランスはイタリアの家へと足を向ける。
扉の前に立つと、強くなるビーフシチューの香り。
イタリアは料理が上手いから、きっと旨いんだろう、と場違いな感想が浮かんでは消え。
「よお、元気か?バカップ…」
扉を勢いよく開けて、なんとか笑顔で手をあげて、吐き出されかけたフランスの言葉は、そこで呑み込まれて消えた。
貼りつけたはずの笑顔がそのままひきつる。
そこには、イタリアがいた。そう、いたのだ。
「あ…兄ちゃんだぁ!」
目の前で、イタリアが笑う。
にこにこと笑う。
「来るなら来るって言ってくれたらよかったのにー。俺びっくりしたよー。」
笑う、笑う。
フランスは呆然としたまま、立ちすくんだ。
イタリアはいつもと変わらない笑みでそこにいる。
「なぁ、聞きたいこと、あんだけど。」
「なにー?」
呆然としたまま、フランスはイタリアのエプロンを指さした。
「その血、なんだ?」
白いしろいエプロンに、赤い、あかい血のあと。
たくさんの、たくさんの、赤い斑点
「あぁ、これ?」
彼は笑う。
「ちょっとついちゃった。」
ちょっと、という量じゃない。
あきらかに通常の料理ではありえない量。
くつくつ、と煮えるビーフシチューの匂いがする。
あぁ、そう言えば、とふと思った。
なぜ一週間誰もイタリアの姿もドイツの姿も見てないのに、ここに肉があるんだろう。
あぁ、そうだ、そういえば、
「…もうひとつ、聞いていいか?」
「うん、どうぞ」
「…ドイツは、今どこにいる?」
シチューを作りましょう。
モモ肉ムネ肉全て使って大事にだいじに塩コショウ。
風味をつける玉ねぎ炒めて、
にんじんもみんな入れて、
デザートには真っ赤なゼリー。
おいしいシチューを作りましょう?
貴方のために、あなたのための
あなたの、
ふふ、くすくす、くすくす。
突如、笑い声。イタリア、だ。
常軌を逸したようなその声にフランスは思わずイタリアに詰め寄る。
いくら大切な弟とはいえ、こればかりは放ってはおけなかった。
どうした、ドイツはどこへいったんだ。
イタリアは笑う。狂ったように、
くすくすくすくすくす。
「ねぇ、聞いて?」
イタリアは自分の胸ぐらを掴んだままのフランスに笑いかけた。
ねぇ、聞いて?
ドイツはね、もう先が長くないんだって。
そういう病気なんだって。俺は置いて行かれるんだって。
そんなの嫌、でしょ?
ドイツは前に俺に約束してくれたんだ。ずっと一緒にいるって。
それなのに約束破るんだ。酷いでしょ?
いつも俺には約束守れっていうのにね。
だから俺、思ったの。ほら、俺たちひとつになればいいんだって。
そうしたら、ずっと一緒だって。
これって良い考えじゃん。
俺、ドイツとひとつになることに決めたの。
ゆっくりゆっくりひとつになるの。二人で一つ。誰にも引き離せないくらい、深くふかく一緒に。
くつくつとシチューが煮えている。
フランスの手をゆっくりとイタリアがつかんだ。
その指先に赤い血の跡。それを見ながらフランスは漸く気付く。
自分が震えていることに。
どうしたら良い?
俺は、どうするべきなんだ?
シチューの香りが鼻につく。
どうすることもできないさ、ここではもう全てが終わり、始まっている。
「ねぇ、だからね、にいちゃん。」
あぁだってそうだ。イタリアはこんなに奇麗に笑うのだ。
「このシチューは残念だけど、一滴だって兄ちゃんにはあげないよ。」
おいしいシチューを作りましょう
あなたとわたしはいつでも一緒。
私の中でいつでも一緒。
食後には真っ赤なゼリーを食べるの。
かけらだって残しはしない。
あなたのためのシチューを作るの
あなたのための、わたしのための
あなたのシチューを、ね。
あぁだって、ふたり一緒になれるなら、そんな嬉しいことはない