終幕 それぞれの幸せを追って




ふわふわ、カーテンが揺れている。窓の外に桃色の花びらを見た気がして、イタリアはそっと手を伸ばす。瞬間、体のバランスを崩した。前のめりに倒れそうになった体を後ろからそっと支える手。

「なにやってるんだ、お前は。」
「あはー。花びらが見えた気がしたの。」
「…まだ冬だぞ。」

まだ乱れたままの髪の毛をふって、溜息をつく彼の前で、イタリアはわらう。そうだよね。夏がすぎ、秋から冬になるまでの間に、イタリアの体は急激に変化した。丸みを帯びた体に、膨らんだ胸。肩過ぎまでのばした茶色の髪をバレッタで止めた彼女は数か月前まで男として暮らしていたのが嘘のようだ。白のワンピースを揺らして、彼女は軽くスキップしながらキッチンに向かう。今日はオーストリアとハンガリーが訪ねてくるのだ。用意がいる。

「ドイツ、何食べたい?せっかくだからリクエストにこたえるよ?」
「…べつに、なんでもかまわん。」
「またそういうこと言うー。もー…。」

イタリアは口を尖らせて、悪かったな、とドイツは呟いた。こればかりは性格だからなおしようがないのだ。

「まぁ、そういうところもすきだけどー…って、あ、。」

がちゃん、と音がして、ドイツは思わず振り向く。ドイツの目の前でイタリアが顔に手をあてたまま冷蔵庫にもたれ掛かるのが見えた。あわてて駆け寄り、体を抱きとめる。イタリアの体調は最近また少しすぐれない。そのまま、近くの椅子に座らせる。

「大丈夫か?」
「うーん…多分。」
「用意は俺がするから座ってろ。」
「おれがするよー。ドイツに料理任せるとおつまみみたいなのしかできないじゃん。」

くすくす笑われて、ドイツは困ったように立ちすくむ。だが、まぁ事実なので、怒れもしない。むりをするな、と一言イタリアに向けて言うと、笑顔が返ってきた。解ったよ。

「大丈夫だから、心配しないでよ。」
「…本当にか?」
「うん。俺が思うに…これ、病気じゃない気がするし…。」
「?」
「もしかしたら、だけど、うんー…。」

立ちすくんだままのドイツの前でイタリアはちょっと考え込むように頭に手をあて、それからカレンダーを見る。そして、

「もしかしたら、だけどね。」


「イタリア!いますか?イタリア!」
「こんにちはー。イタちゃーん!」

瞬間、玄関口から声。がたがたと大きな音。オーストリアたちだ。お土産を持ってきたのかもしれない。ドイツが顔をしかめて、慌てて玄関に歩いて行った。イタリアは笑いながらそれを見る。来るの早すぎる。まだ準備できてなくて、でもまぁいいか。

ふきこむ風に揺れた髪を緩く掻きあげて、それからそっと腹部を撫ぜる。少し、すこしだけだけど、そこは膨らんだようにも見えて、

「もし、俺が女に生れた意味があるとしたら。」

それは、今この時のためだよ。

呟いた言葉は、玄関から響く喧噪に溶ける。