昼下がりスロータイム



とろとろとけてしまいそうな午後だと思った。
気だるい午後の日差しの中で俺はソファの上に寝そべって、小さくあくびをひとつする。こんな午後は嫌いじゃあなかった。今日は会議は早く終わったし、昼メシに出されたコーヒーは淹れたてでおいしかったし、ちょっとかわいい子に夜のお約束までとりつけたのだからもう俺にとっては今日は最高にいい日なのだ。とけそうな雰囲気にのまれて目を閉じるそれは最高のぜいたくだ。国として生きてきて俺はもう長くなるが、今の時代が一番楽だと思う。平和というものを一番よく理解しているのはたぶん俺達国そのものだ。

「おい、フランス、いるのか?」

まどろみかけた頭の中を揺さぶるようにおこしたのはどこかまだ少年のような高さと幼さをのこした声で、俺はそんなにそいつのことが好きではなかったから、思わず小さくため息をつく。どうしてこんな気分のいい日にこいつがくるんだ。ちいさくこぼした言葉は勝手に上がりこんでくるそいつの足音に消されて空中に舞うように消えた。
舌打ち。

「こんな時間に寝てんじゃねーよ、バーカ。」
「ちょっとそんな言い方はないんじゃないんですかねー…。かってに入ってきて。」

俺のいやみに彼…イギリスは反応しなかった。ただ部屋を見回して、そのまま突っ立っている。何をしにきたのかわからない、こういう訪問は一回アポとってから来いよ。ソファの上で露骨にいやそうな顔をしてみたが、ヤツは何も言わない。俺は仕方なく起き上がってソファの片端を空けた。そこを軽く手で叩く。

「座れよ。」

彼はまた何も言わずにそこに座った。残ったのは沈黙と静かな空間だけだ。変だ、明らかに変だ。こいつはいつも俺をいるとひどい言葉ばかり言うくせに、どうしてこんな静かなんだ。わけもわからずにとりあえず声だけでもかけようかと振り向いた、その時だった。

いきなりつかまれた腕、掛かってきた体重。予想もしていなかったその行動に思わず体の重心が崩れた。倒れる、思う間もなく、俺の体はソファに倒されていた。なんだこの状況どうなってるんだ。わけわかんねぇ。慌てて伸ばした手を掴みとられる。何が、いったい何が起こって。

ちゅ。

唇に、柔い感触。キス?キスだ。このあり得ない状況に驚いたのは、むしろイギリスの野郎の方だったようだ。目を見開いて、それからあわてて手を離す。呆然とした俺の前で、ヤツは真赤になった顔のまま立ち上がった。走り出そうとする手を止める。

「ちょ、お前待てよ。」
「っるせぇよ。離せ!!」
「離すかよ!」

引き止めたヤツは今にも泣きそうで、それでいてどこか達観したような雰囲気で、俺は引き留めたもののどうしていいか分からない。
指先が震える。ヤツが口を開く。

「なんだか、自分でもよくわかんねぇんだよ。」

掴んだ腕を逆手に取られるようにして、今度は抱き寄せられた。鼻先に来る彼の髪は意外と柔らかい。震える彼をみて、唐突に気づいてしまった。たぶん、ヤツもおんなじことに気付いてしまったのだと思う。



好きだ




にのはちに捧げます。普段この二人を書くことってあまりないからすごく新鮮でした。