俺とドイツはずっと前から仲良しで、そして俺はずっと前からドイツが好きで、大好きで大好きでどうしようもないから告白しました。
ドイツは驚いたみたいに目を見開いてから、それから俺もだ、といいました。
ようするにこれは、幸せな恋愛小説ならハッピーエンドの結末だったわけで、めでたしめでたしってとこなの。
だから、これは、めでたしの後の話。
愛の瓶詰め
俺はドイツが好きで好きで本当に好きで、だから一緒に住みたくて、それでドイツの家に俺が転がり込んだのは半年くらい前。
家に来た俺を見て、ドイツは困ったような顔を一回して、それからこういった。
『ここに住むなら、ここのルールには従うことだ』
俺だってそれは当然だと思ったし、だから俺はうん、と頷いた。
問題は、その夜だった。深夜遅くに家に帰ってきたドイツはとても疲れているようで、溜息ばかり。
俺は、ご飯待ってたから(たしか、その日はグラタンだったんだよ)ドイツに笑いかけて、ご飯、できてるんだよ、って言って。
でも、ドイツはあぁ、とかうん、とかしか言わなくて、俺はちょっと面白くなくて(だってあつあつがいいかと思って、焼くのをずーっと待ってたのに)
もっと喜んでよーとかグラタン嫌い?とか好きって言ってーとか騒いだ。それでもドイツはぶつぶつと何か言うばかりで。
俺は本当に悔しくなって、ハグして!って言って、抱きついた。そのときだった。
『…うるさいと言っているのがわからないのか!』
一瞬、何がおきたかわからなくて、気づいたときには俺は床に倒れてて、ほっぺたには熱い感覚。
じんじんとしたその熱さが痛みに変わる頃初めて、俺は殴られたと知った。
『…この家にいたいなら、少し静かにしてくれ』
ようするに、これがドイツが俺にした暴力の最初で、このときを境に、ドイツの暴力は歯止めが効かなくなっていった。
ほんのささいなことで殴られる。昨日は、俺がうっかりして、ドイツの書類を机から落としてしまった。
ドイツはそれを見て凄く怒って、俺は殴って蹴られて、ちょっと意識がとんだ(だって、ドイツは俺よりずっと強いんだもん)
気づいたときには、俺はベッドに寝かされていて、そして、目を開けた俺にそばにいたドイツは本当に申し訳なさそうにこういった。
『すまなかった。』
そう、これなんだ、これがあるから俺はここから出てもいけないし、ドイツが嫌いにもなれない。
俺を怒りに任せて殴って蹴っての暴力を加えまくった次の朝のドイツはとても優しい。
朝ごはんは作って食べさせてくれるし、休みの日だって笑顔で一緒に出かけたりもする。
そういうときのドイツは平日の夜に苛々して俺を殴るときとは別人みたいだ。俺が、ずっと昔から見てきて、好きになったドイツの姿だ。
ドイツは、俺を愛してくれてるの。それがとてもよく解るの。だから、嫌いになれない。
「…今、帰った」
「おかえりなさい。」
帰ってきたドイツを玄関口で迎えて、俺はそれだけ声をかけた。
今はちょうど深夜0時。別に珍しい時間じゃない、もっと遅いときだってあるもん。
上司にいろいろ言われたんだろうか、ドイツの顔は苦しそうだ。
それでも俺はおかえりなさい以上のことは言わない。
玄関で迎えるときに、あれこれ言わないこと、これは俺が最初に学んだこと。前に一回大丈夫?と声をかけたとき、それが気に障ったのか、ドイツは俺を殴った。
いつもお前は一言多いとかなんとか言われた気がする。俺は、どこまで言っていいのかよく解らない。
ドイツの持つ鞄は重そうだ。でも、持ってあげるともいえない。余計なところまで手をだすな、と蹴られるから。
俺は、どこまで手を出していいのかもよく解らない。
ご飯は食べてきたというから、俺はドイツの分のご飯を冷蔵庫に片付ける。
最初は食べてきた、といわれるのが凄く悲しくて(だって俺、料理には自信あるからさ)それで騒ぎすぎて良く殴られた。けど、別になれたことだから、今はどうってことはない。
休みになれば、美味しいってはにかんだみたいな笑顔で食べてくれるし、それがあるなら俺はやっていける。
ちらり覗き込んだドイツの顔は疲れと苛々で少し怖かった。
ドイツの上司は俺のと違って厳しいし、仕事をいっぱい言ってくるらしい。だから、ドイツはとても大変だ。
でも、そんなこと俺はここに来るまで知らなかった。
いや、他の国も絶対知らないんだ。家でこんなにドイツが苛々してること。
暴力振るうこと。疲れてしまっていること。
だって、ドイツはそんな風なことを絶対外にはださないからね。
そう、だから、だからこれは、俺だけが知ってることなの。
俺だけ。俺だけのドイツ。
昨日、蹴られたお腹がまだずきずき痛む。今日、そっと鏡でみたら、青くなっていた。
そういえば、とふと俺は思い出す。一週間くらい前、俺はドイツに殴られたことがあって(理由はなんだっただろう、忘れてしまった。多分凄く些細なこと)
それで、口の端を切ってしまった。ほっぺたもけっこう赤くなったんだ。
運悪く、その次の日俺を訪ねてきたのはフランス兄ちゃんだった。兄ちゃんは鋭い。俺を見て、こういった。
『その傷は、なんだ?』
俺は、なんでもないよ、と一言だけ答えた。
『…お前、ドイツといて、幸せなのか?』
ドイツに殴られてるよ、蹴られてるよ、って言えたらどんなに楽になるだろう、と一瞬思った。
フランス兄ちゃんは多分俺を助け出すだろうし、俺は楽になる。
もっといい付き合い方を探せるかもしれないって。
そう思ったのに、俺はひとこと笑顔でこういったんだ。
『幸せだよ、兄ちゃん、とても、とても、ね』
あぁ、あのときね、俺は多分兄ちゃんにこの俺だけのドイツを取られたくなかったんだよね。
ドイツの暗い部分を兄ちゃんの知ったとしたら、それはもう俺だけのじゃないもん。
嫌だ、それは嫌だな。ねぇ、兄ちゃん解ってね。ドイツは俺のこと愛してくれてるんだよ。
だから、俺にだけ暗い部分も見せてくれてるの。それだけ。それだけのこと。
そう思ったら、お腹の痛みもなんだか愛しくなってくるから不思議。
青いあざも切り傷も全部これは愛の証だよねぇ。
これが消えるまでは俺はドイツのだし、ドイツは俺のだもんね。
俺は、ドイツに頼まれたコーヒーを持って、そっと部屋に入る。
部屋の端の机で、ドイツは書類の整理をしていた。
三歩、俺の足で三歩歩けばドイツの机に着くだろう。
そして、その二歩目で、俺は足を滑らせるんだ。
うっかりMにも目覚めかけてますなイタリア。
本当にいろいろもうしわけない。DVD同盟誕生記念。