ゆめにおもう
眠い、と思う。
ふわふわと夢と現実の境目を浮かぶような感覚。
イタリアにとってこれはあまり好きな感覚じゃあなかった。
体は起きているのに頭は寝ているというのか、それともその逆か。
体が自分の思いどおりに動かない不安。
霞む頭でなんとか動かそうとした手は意に反して動かずにシーツに縫い付けられたままだった。
嫌だ、なぁ。
ぼんやりと考える想いも霧の中。なんだか無性に眠い。
あぁ、あの時もこうだった、とイタリアはひとりごちる。
あの時も、この世界がすべて戦いに覆われてしまっていたあの時も。
きっとあの戦争の時は、みんながこうだったのだろうと思う。
皆、自分の意思を超えた何かで動いていた。イタリア自身もそうだ。
なんだかあの時のことはよく覚えていない。
霞がかった意識の中、だた走らなければいけない気がして、走り続けただけ。
皆きっとそうだった。
眠ったままの頭を抱えながらただがむしゃらに走り続けて、得たものは大きすぎる空虚。
眠い、と思う。
ゆらゆらと揺れる景色が遠ざかる。
平和だな、と不意に実感する。平和だ、今はこんなに。
「日本は、どうしてるかなぁ。」
眠い頭のまま、呟いた。
黒髪の奇麗だったあのひとは、今なにをしているんだろう。
戦争が終わって、枢軸は消えて、それから日本とはあまりあっていない。
ドイツとはよく会うのに、とイタリアは考える。
もともと遠いところに住むひとなのだから、会えないのは解っているけれど。
ねぇ、でも、ね
イタリアは目を閉じる。
あの時代のことを思い出すとき、脳裏に浮かぶのはねぇ、
ずっと俺の味方だった兄ちゃんが俺に銃を突き付けるような、
いつも優しく笑う日本が血まみれになりながら兵隊さんをうっていくような、
ドイツが俺と仲良しさんだったポーランドをいじめてるみたいな、そんな戦争のことじゃなくてね、
皆で笑いながら一緒にいたあの時間なんだ。
日本が笑って、俺はふざけて、ドイツが困ったみたいに頭抱えて、そんな風景だよ。
だから、さ、
あいたいな、あの時みたいに笑顔で
あいたいな、大好きだったあの瞳に
ゆらゆら景色が揺れ始めていた。
「ねぇ、にほん、にほんも、しあわせなときのこと、おぼえてる?」
小さく呟いたら、あたりまえですよ、イタリアさん、とそんな言葉が聞こえた気がして、
イタリアは小さく笑みをこぼしながら、深い眠りに落ちていった。
この優しい思いが、東の遠い国までとどきますように。