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俺はどうしたいのか。俺は何を望むのか。

ハンガリーさんのいなくなった部屋の中で、俺はぼうと座ったまま考える。レースのカーテンがふわりと揺れて、なんだか泣きたいような気分になった。たぶん、オーストリアさんは、ドイツに俺のことを話すだろう。そのとき、ドイツはどう思うだろうか。汚れた俺のことをどう思うだろうか。

かちゃり、

ドアノブのまわる音がする。俺は窓の外を見たまま顔をもどさなかった。足音と、雰囲気で解っていた。これは、ドイツ。

「イタリア、その、」

ほら、やっぱり。いつのまに、こんなに俺はドイツのことを追い掛けていたんだろう。解らない。俺は何も言わずに向こうを向いていた。嫌われたくなかった。ただ、苦しくてどうしていいかもわからない。俺が、溜息をついた、その瞬間だった。

「−!!」

何がおきたのか、解らなかった。ただ、景色が一瞬ぶれて、そして、体が暖かな感覚に包まれる。背中に体温。そこで、初めて俺は気づいた。抱き締められている。ドイツに。ドイツの腕に。

「な、なにしてるの!?」
「悪かった。」
「…え?」
「気づけなくて。」

何を言ってるの?何を言いたいの?俺にはわからない。ただ、目の前がなぜかかすんでいく。胸の奥からせり上がるような苦しさが俺を満たして、でもなぜかそれは嫌な感覚ではなかった。息ができない。霞む、かすむ。

「何を、いってるの。なにを。」
「気づけなくて、すまなかった。すまない。なぁ、イタリア。」

抱きしめられた、腕は、酷く温かく、俺のとは違って、とても大きい。全てを守れる手だと思った。強くて、優しいと思った。

「好きだ。」

あぁ、駄目、泣いちゃうよ。

ぼたぼたと零れる涙に視界を邪魔されながら、震える頭を振る。駄目、だめ、そんなこと言っちゃだめ。

「どうじょう、してるの?」
「そういうんじゃない。本当に、本当に、その、」

ドイツはぽつりぽつりと話す。オーストリアさんに全て聞いたこと。それから、ゆっくり考えたこと。そして、それから、

「自分の気持ちがどうなのか、考えた結果がこれだった。」

ぼたぼた、涙は止まらない。涙腺が馬鹿になったみたい。俺はドイツの方に一気に振り向いた。そのまま、その腕にすがるように抱きつく。顔をうずめたシャツから、懐かしい香りがする。あぁ、本当は、こんな風に助けてほしかった。あの時も。あの手を取ってほしかった。こんな風に抱きよせてほしかった。

「俺も、好き、だよ。」

だから、もう離さないで。

俺は、女で、それでもどうしようもないくらいに汚されていて、それでも俺はここにいてもいいのでしょうか。それでも何かを生み出せるのでしょうか?俺が女として生まれた意味はまだここにあるのでしょうか?あるとしたら、そのときは。

「愛してるの。」

神様、かみさま、俺にもう一度、祝福をください。


レースのカーテンが揺れていた。
顔をあげて、ただゆっくりと目を閉じた。そっと降りてきた体温に安堵する。初めてのキスは、甘い紅茶の味だった。