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足が震えている。その理由は疲れのせいじゃなかった。ただ、夢が現実にまで浸透してきたような、その感覚のせいだ。怖い。浮かぶ環状は恐怖。胸が詰まるような感じがする。夢の中でいつも俺はこの道をまちがいなく歩いていた。そして、嫌なことが起こる。俺に嫌なことが。
足はがくがくと恐怖に震えて、それでも前にすすむのを止められない。まるで何かに憑かれたみたいに。みたくない。この先は見たくない。なのに足が止まらない。
道は唐突に終わった。
舗装もされていない道の終わり、そこは開けた広場になっていた。その広場の真ん中に、朽ち掛けた、建物が。
「あ…あ…あ、あぁあああ…」
開いたままの口から洩れるのは意味不明な叫び。駄目、だめ、いやだ。いや。壊れかけたそれは大きな教会。取れてしまったとびら、割れた窓。そこから見える十字架。太陽の光を受けて鈍く輝く十字架。それを見た瞬間、俺の脳内にスパークするように記憶が、流れ込んで
「いや、いや、いやぁああっ!」
あとずさりしながら俺は叫ぶ。頭に流れ込んでくる記憶。幼い俺。あの日俺はこの道を歩いていた。神聖ローマの無事を祈りに。朝のお祈りのために。
「嫌だ、嫌。思い出したくないよ、嫌、嫌。」
お祈りにいって、それで、あの大きな十字架が。十字架が光って。人が知らない人が。知らない人がたくさん来て、それで、知らない人が。
「いや、いや。」
十字架が光り続ける。頭がくらくらした。貧血だ、また、貧血だ。足元が浮くように揺れて、そのまま地面に倒れた。揺れる頭を抱え込みながら足元を見る。ズボンの股のところに染みが見えた、赤い染みが、赤い赤い染み染みは広がって、地面にも赤い跡を残して
あぁ、あぁ、思いだしちゃった。
俺は、汚れていた。神様の前で汚されていた。