つまりはそういうこと



…なぜ自分はこんなに面倒な奴にばかり好かれるんだろうか。


「君はいつも仕事ばっかじゃないか!つまらないんだぞ!」


デスクの向こう側で叫びまくっている奴をみながら俺はため息。
なんでいつもいつもこう面倒なやつばかり…

「だいたい!君がどうして今やっていけてると思ってるんだい?俺の経済援助のおかげじゃないか!
少しは構ってくれよ。つまらない!」

経済援助。

その一言でペンを止めて、げんなりと顔をあげた俺の前で、そいつはにこにこと得意気に笑う。
青い瞳に金髪。…アメリカ、だ。


第一次大戦はこちらの敗退で終わり、残されたのは多額の戦債。おかげでこっちの経済は火の車。
いい加減どうにかなってしまいそうだ、と思っていた俺に話を持ちかけてきたのがこいつだった。


『ドイツ君!支払いは大変なのかい?』

こいつはくるくるとせわしなく変わる表情のせいで子供の印象が抜けきらないのだ。(まぁ若いには違いないが)
このときもこいつはぱたぱたと子どもみたいに動いていた。

『だったら品物を作って俺のところに輸出すればいいんだよ!大丈夫!俺のとこは今すごーく豊かなんだぞ!』



目の前の奴は俺が仕事を止めたのが嬉しいのか喜々として新型の飛行機について話し始める。
こういうなんだか子どもくさいところはイタリアに似ていると思う。
ただこいつのやっかいなところは、こいつには力と経済力があるということだ。

「で、ってドイツ君、聞いているのかい!?」

「…あぁ。」

「嘘だ、聞いてなかっただろう!解るんだぞ!話を聞くときは目を見て聞けって言うじゃないか!
君はいつも違うとこばかり見てるじゃないか!」


むう、と膨れたままのアメリカにまた胃が痛くなる。
こいつに拗ねられたら困るのだ。嫌な話だが、こいつに経済援助を止められれば、俺はやっていけない。


「…イタリア君のことでも考えていたのかい?」


不意に、聞きなれた名前が目の前の奴から発せられて、驚いたようにアメリカを見る。
アメリカはぷい、と横を向いたままだった。


「どうしてそこでイタリアがでてくるんだ。」

「うるさいな、君はいつだってイタリア君ばかりじゃないか!」


拗ねたような横顔は、まるでいつものアメリカとは違っていたから、俺は困ってしまう。
イタリアにかまっていたのは事実だが、こんな風に言われたのは初めてだった。
顔をしかめたまま困っている俺の方をアメリカがゆっくりと振り向く。
じ、と青い瞳がこちらと見ていた。

気まずい。


「アメリカ、あのな…「どうして、」


俺の言葉を遮るような声。
見下ろしたアメリカはこちらから目をそらそうとしない。
どこか、さびしそうな目だった。


「どうして、俺が君に経済援助を申し入れたかわかるかい?」

「…いや、」


青い瞳が伏せられる。
そして、次の瞬間、


「!!?」


唇に触れたのは、柔らかい感触だった。
目の前にメガネのフレーム。その向こうに伏せられた青。

一瞬ののち、ぱ、と離れたアメリカはそのままぱたぱたと走って行ってしまう。
部屋から出る瞬間、ひとことこうつぶやいた。

「好きな人に、自分だけ見ていてほしいと思うのは、悪いことかい?」



あぁ、もうなんだっていうんだ。
部屋に残された俺はひとり頭を抱えて

どうして俺はこんなに面倒なやつにばかり好かれるんだ。
このままほっておけばいい、と思う。まさか、こんなことで経済援助を止めるとはいわないだろう。
だが、

青の瞳がふと脳裏によぎる。

溜息ひとつはいたあと、ペンを机に置いて俺は、

あいつの消えた扉の向こうに足をむけた。






いつも思うけども、アメリカって以外と難しいですよね、書くの。