帰りたくなったよ
ドイツが家に帰ってきたとき、彼はもうそこにいてないていたから、ドイツには何故彼がないているのか皆目見当もつかなかった。ただ、彼は彼らしくない悲しみとも苦しみともとれない表情でないていた。手には古びたテディベア。彼は泣いていた。
「どうした?」
答えはなかった。ただ、首をふって彼を泣いた。彼がどうしてドイツの家に勝手にあがりこむのか、それをといただすのはもうやめた。彼が自分とはあまり友好的でない、否、どちらかといえば仲の悪い方に入るドイツの家に来るのは、おそらく彼がアメリカ自身の辛い過去を知ることがないからだ。彼はいつもにこにこ自信ありげに笑っているが、それは何かを隠すためだということをドイツは知らないほど馬鹿ではなかった。彼がここにくるとき、それは大抵なくときだ。そんなときドイツは最小限の声だけかけてあとはそっとしておく。それがいいことなのか悪いことなのかもわからなかったが、まだ国として歴史の浅い自分には、彼の苦しみは理解してやれないだろうと、そんなことが脳裏をよぎる。そのたびに、胸が苦しく歪む想いがするのだ。
「帰りたくなるんだ。」
アメリカはある日ぽつりとつぶやいた。テディベアを抱えたまま、ぽつりとそう呟いた。
帰りたくなるんだ。酷く、酷く。
それが何を意味するのか、思いあぐねてドイツはまた開いた口を閉じるしかない。ただ。そのときの彼の顔があまりに、そうあまりに悲しげだったから、ドイツはその肩をだきよせた。イタリアのとちがってきっちり鍛えられたそれは抱き心地のよいものではなかったけれど、肩にすりよるように泣く様は酷くいとおしく感じた。彼は泣く。
「帰りたくなるんだ。あいつの待つ家に帰りたくなるんだ。聞いて欲しいことが沢山あって、それで、笑ってくれたら。」
あいつ、がだれなのか、わからないほど自分は馬鹿にはなれなくて、抱きしめたままドイツは顔をしかめる。彼は寂しいだけだ。酷く酷く寂しいだけだ。自分には詳しいことは解らずとも、昔あった事実は知っている。そのときのことを少なからず彼が苦しんでいることも。テディベアが揺れる。彼は泣く。
「帰りたいのか。」
「君には俺の気持ちなんてわからないさ。」
あぁ、もうそういわれてしまえば仕様がない。
腕の取れかけた古いテディベアを見ながら、不意に浮かんだのは焦燥だった。
どうして彼は俺を見ようとしないのだろう。