青春18キップ
なんだか旅に出たくなった。
それは、酷く突発的な感情で、なのにとても魅力的だった。
電車はがたがたと音をたてて揺れている。
少し開いた窓から吹き込む風がアメリカの金髪を揺らしていった。
その外を景色が流れていくのが新鮮で、アメリカは口元をほころばせる。
そういえば、最後にふらりと旅にでたのはいつだったろう。ずいぶん昔のことだ。
かたかた電車は揺れている。
なんだか旅に出たくなったのだ。その理由は良く解らない。
だけど、旅にでたくなった。
不意に少し前のサミットを思い出す。
アメリカは、その時、環境問題に取り組むことを拒否したのだった。
ほとんど全ての国がそれを非難した。けれど、これは譲れなかった。
どうしてこんなに上手くいかないのか解らない。自分は、大きくなって、強くなって、全てを手にしたはずなのに。
何かを手にする度にまた、何かを失ったような気がするのだ。
『少し、疲れているんじゃないのか?』
あの時、サミットの終了後、ぼんやりとしていたアメリカに声をかけてきたのはドイツだった。
『疲れてないさ。何言ってるんだい?君は!!』
『…いや、だったらいいんだが。』
笑うアメリカの前で、ドイツは少し考えるように首を傾ける。
アメリカは自分が身長が高いと自負していたし、育ての親とも言うべきイギリスよりも高くなったのだけれど、結局彼にはかなわなかった。
少し高い位置で、彼はこちらを見ている。何がいいたいんだい?アメリカが言うより先に、彼が口を開いた。
『休むときは、休んだほうがいい。自分では、案外解らないものだ。』
彼は、それだけいうと、ポケットから小さな銀色の包みを取り出す。
アメリカの手に乗せられたそれは、小粒のチョコレート。
イタリアがくれたのだ、と言う長身の彼にその小さな菓子はあまりに似合わなくて、
笑ったアメリカにドイツは困ったように顔をしかめる。
イタリアからのもらい物というのは、なんだか少し気に食わなかったのだけれど(何故かは結局解らないけどな)
それを自分にくれたという事実がなんだかうれしくなった。
手の上の銀の包みがなんだか酷く暖かかった。
電車に揺られながら、アメリカはポケットを探る。ポケットには、あの銀紙。
あのチョコレートは、とびきり甘かった。甘かったのだ。
最後に旅に出たのはいつのことだろう、とアメリカは考える。
大分前、まだ自分がイギリスの助けなしには生きれなかったころ、毎日が旅のようなものだった。
アメリカを縛るものはなかったし、すべては冒険だった。
最近は、少し縛られすぎていたのかもしれない。きっとそうだ。こんなのは、性にあわないさ。
窓の外には緑が広がっている。
あの時のチョコは酷く甘くて、なんだかとても心の奥に響いたから、
なんだか、旅に出たくなった。なんだか君に会いたくなった。
それだけ。
だから中東の方に出かけたときにちょっとその場を抜け出して、キップと財布だけ握って飛び出した。
西行きの電車に飛び乗って、どこまでいけるか解らないけど。
車内アナウンスが次の駅名を告げた。
もうすぐ君の街に着く。
独米独みたいな感じ。この2人の組み合わせも好きです。接点ないけど。
リクエスト、ありがとうございました!