*ドイツがドSです。
*流血してます。













可愛すぎる君のせい


酷い頭痛と耳鳴りがした。くらくらと立ち上がるたびに起こる眩暈。震える手先。まるで自分の体が自分のものでないようだ。

イタリアが、他の男と歩いていた。知らない男だった。

それは全く偶然だった。自分は本当はその日出かける気など全くなく、家に閉じこもって読書をしようと決めていた。イタリアはそんな自分の申し出に特に何も言わずにOKを出した。そうだ。そこからまず疑うべきだった。いつもあんなに自分に執着してくる彼が自分のいない休日を謳歌しようなどと思うはずがないのだ。なのになぜなにも思わなかったのだろう。ドイツはくらくらする頭をもてあましながら睨むように前を見る。一緒に歩いていたのは全く知らない男だった。黒髪に鳶色の瞳。にこやかに笑うそいつは自分とは正反対の雰囲気をかもし出していた。イタリアが不意によろめく。そいつの手が伸びる。イタリアが手を取る。笑う。笑う。抱きとめて、笑う。あぁ、あああぁあああ。


「痛いぃ!」


イタリアが叫ぶ。あぁ、そうだ。初めて体を繋げたときも、彼はこうやって鳴いた。あぁあいたいのはこっちだ。あんな男と一緒に笑っていたやつに自分の苦しみがわかるものか。

「痛い…ドイツいたいよぉ。」

痛いのはこっちだ。こっちの胸だ。お前に何がわかるんだ。頭がくらくらした。酷い頭痛と耳鳴り。ぶーんと遠くで音が聞こえるような感覚。あぁ、だめだリフレインするのはイタリアの笑顔。あの男の笑顔。腰に回された手。嫌な想像が頭をよぎる。イタリアが腰を振っている。あんあん啼く、その視線の先に、

あぁ、クソ。

「痛い…いたあぁあああ。」

べり、嫌な音。目の前にイタリア。足元に赤。自分の手にペンチ。そう、鈍く輝く、ペンチ。

「なぁ、イタリア、答えろ。あの男は誰だ。」
「何言ってるのか、わからないよぉ。ねぇ、どうしてこんなことするの。痛いよ。痛いよ。」
「まだ、しらを切るのか。」

苛々する。胸がむかむかして病まない。酷い耳鳴りだ。あぁ、駄目だ、だめだ。自分は何をしているんだ。イタリアの姿が脳裏に移る。やつの上に乗って喘いでいる。目の前のイタリアが映る。涙目で、あぁ悪いのは、そっちだ。

右手の薬指。桜色の綺麗な爪をペンチで思い切り剥ぎ取った。


「あぁあああああいたいぃいいい!!」


ぼたぼたと血が落ちる。はぁはぁとイタリアは荒い息で繋がれた手足、その先の血塗れた手をその目は虚ろに揺れた。はぁはぁ、喘ぎに昨日の残像が写る。イタリアの笑顔とあの男の顔がだぶる。あぁ、苦しい、苦しい。裏切られた。自分は裏切られたのだ。

「言え、もっと痛いほうがいいのか?」
「やめて…やめてよぉ…ったああぁあああ!!!!!!」

べりり、次は薬指。

綺麗な爪だ。綺麗な顔だ。あぁ、何故自分はこんなに興奮しているのだろう。知らない男の上で喘ぐイタリアが浮かぶ。目の前の血塗れたイタリアを見る。あぁ、駄目だ、認めたくない事実に気付いてしまう。

自分は今、性的に興奮している。しかもものすごく。


「痛い…痛いよぉ…」
「さぁ、言え。誰だ。」


首を振るイタリアの涙目の顔に満足したように俺は口付けた。涙で濡れた口内は甘い。あぁ次は小指の爪だ、イタリア。

思考の片隅、イタリアの上司が黒髪で鳶色の目をしていたことを、自分はあえて忘れておいた。



すべては可愛すぎる君のせい。