おそろい日和



「ちょっと、髪が長くありませんか?」

日本がそんなことを言ってきたのは、日の光の暖かな昼下がり。
俺は少し首をかしげて、それから前髪を軽く掴んだ。

「そうか?」

「そうですよ。目を前髪が隠しているじゃないですか。」

そう言われたらそうかもしれない。
最近は忙しくて散髪に行っていなかった。
俺はフランスの野郎みたいに髪がウエーブかかってるわけでもないし、どっかのバルトの国みたいにもっさりしてるわけでもない。
だから、あまりこまめにいじらなくても良い髪質なのは確かだけども、しかしこれはちょっと伸ばしすぎた。

そういえば、最近視界を髪が邪魔している。

「…切ったほうがいいか。」

「あー…なら、私がしましょうか?」

私が?
俺は日本の方を振り向く。私が、髪を?

「…に、日本が切ってくれる、の、か?」

「えぇ、私まぁ切ったことはありますし…。いえ、お嫌でしたらいいですけど、「切ってくれ!」」

こんな機会めったにない。逃してなるものか。
髪を伸ばしすぎていた自分にグッジョブ!と一言胸の中で呟いて、椅子に座る。
じゃあ切りましょうか、後ろから日本の声。

振り向いて、そのまま意識が飛びそうになった。
エプロン、エプロンだ。しかもピンクの!日本がエプロン!!!!


「これ、勝手に使ってしまったんですけど…」

「いや、自由に使ってくれ。」


あれは確か、フランスが以前に俺を馬鹿にするために持ってきたやつだ。
そのことにふと思い至った。生まれて初めて俺はフランスに感謝する。たまにはヒゲもいいことするじゃねぇか。


「切ってもいいでしょうか?」


はさみを持った日本の手。
あぁ、と一言呟くと、しゃくっと小さな音が耳元で響いた。
ゆっくりとハサミを持った手が動いていく。袖をまくってたままの日本の細い腕が自分の真横に見えた。
無駄に緊張してしまって動いた瞬間、上から声が響く。

「動かないでくださいね。」

その真剣な声に上がる心拍数。こんな日本は見たことなかったからな。
なんとか体をまっすぐに保つ。
しゃくしゃくとハサミの音。
規則的に響くその音は、どこか心地よく。俺はくすっと小さく笑う。

そのときだった。はらり、落ちた髪が前を見ていた俺の目に入っ、て


「っいて!!!」

「え、動かないでくださってうわ!」



しゃくん。




「…」
「…」


あ、今、なんか嫌な音がした、気が、する。




「…イギリスさん…」

「…なんだ?」

「…すいません。」




俺はゆっくりと鏡の方を振り向く。
前髪が、まっすぐ横に切られて、



「っておいいぃいぃいいい!!!!」

「すいません!本当にすいません!!!!!」


まっすぐパッツンと切られた前髪に血の気が引く。
脳内に浮かぶ、フランスやらアメリカの馬鹿にする声。
あぁ、ちょ、これどうしよう。


振り向くと、日本が申し訳なさそうに立っていた。
すいません。消え入りそうな謝りの言葉。ピンクのエプロン。怒れない、俺には怒れない。

怒ることもかといって慰めもできず、固まる俺に、ですけど、と一言、日本が慌てたように付け足した。


「ですけど、それほら、私とおそろいじゃないですか!!」





・・・あぁ、やっぱり許してやろう、うん。




とりあえず、明日帽子を買いに行くことにしよう。
決意した俺の前で、陽だまりの空気が揺れた。








…髪切るときにエプロンってつけるっけ…??
まぁ、とにかくリクエストありがとうございました!