ひだまりに猫



ひだまりでぼんやりしていると、不思議な気持ちになることがある。
なんだか全てがあいまいで、溶けていってしまいそうな気持ちだ。
私は縁側で少し目を閉じる。夏の名残を見せながらも着実に秋に移行している季節は穏やかに過ぎる。
風が頬をなぜていった。心地よい感触。
ちりん、と鳴った音が高い空に吸い込まれていく。そろそろ風鈴もしまわなければならないだろう。

縁側には、よく猫が入り込むものだ。
猫はどこからやってくるのか良く解らない。ただ、どこからかやってきて縁側を占領していく。

「…日本。」

ほら、今日もこんな風に猫が一匹入り込んだのだ。
はね気味の髪が揺れている。猫は気まぐれに縁側を占領していく。今日もそうだった。

「あぁ、ギリシャさんですか。」

うん、と曖昧な返事を残して彼はまた視線を遠くに戻してしまう。
彼は猫そのものだ、と思うときがある。猫は気まぐれだ。気まぐれに現れて、心を不意に乱していく。

「・・・日本の家、涼しくなった。」

ぽつりと彼が呟くから、私は放っておけずに隣に腰掛ける。
彼は寝そべったまま、動かない。

「秋ですからね。」
「秋…」

夏の間、私の家では湿気でだらりとしていた彼の髪は秋の快晴の中、涼しげにゆれていた。
彼は猫に似ていると思う。どこから来るのか解らないが、気づくとここに寝そべっている。
それを追い払うことも私にはできない。だから彼はここにいる。

「俺の家、秋はない…。」
「そうですね、秋はなかなか珍しいものかもしれません。」

私は世界の皆さんの家について詳しいほうではない。だけど、他の国にこの季節が無い国も多いというのは聞いていた。
私は、それでもこの季節が好きだった。何かが終わり、始まる予感がする。
冬に向けての寂しい季節だと人は言うけれど、終わらなければ始まらないのだ。

「…秋、好きだ。」

彼は呟いて、私は笑いながら相槌を打つ。
彼は饒舌ではないが、おしゃべりだ。そう気づいたのはいつだろう。
こうやってゆっくりと縁側に座っているとき、彼はぽつりぽつりと話をする。
私は相槌をうちながら、それに付き合う。
こんな時間はとてもゆったりとしていて私には貴重だった。
私の家はどうにもあくせくしていて、こんな時間を捨ててしまっているのだ。
静かな時間が流れていく。季節が変わるのはこんな風にゆったりとした時間の流れの中なのだ。

「…日本は、猫に似ている。」

ぽつり、彼が呟いて、私は伸びをし掛けた手をそのままに彼の方を振り向く。
え?と呟く私の前で、彼は少し首を傾げて少し体をずらした。膝に頭を乗せるようにして、私を見上げる。

「そう、ねこ。」
「似てませんよ。」

どちらかといったら、ギリシャさんが猫のようです。そう言おうとしたのに、にほんは猫だ、と重ねていわれたら、もうなんだか反論するのも面倒になる。
私は結局、はぁ、とだけ返事してそのまま座りつづける。
彼の髪の感触が膝にあってそれでも不思議と気にならなかった。彼の手がゆるりと伸びて、私の頬に触れる。
その手は優しかった。優しくて、大きい。
彼は一回光に目を細めるようにして、それからまた口を開いた。

「俺、ねこ好きだ。」

微笑みながら私の手を頬に触れる彼はとても暖かで、彼の周りではいつも時が緩やかになる。
その時間が、私は好きなのだ。
彼は、猫に似ている。気まぐれにやってきてその場に空気を変えていく。
あぁ、でもここはひだまりの縁側なのだ。目を閉じれば暖かな陽光。
そうだ、私も猫になればいい。

「私も、猫は好きですよ。」

空にいわし雲が流れていた。
季節外れの風鈴が一回風に鳴る。

気まぐれな猫は気まぐれな午後を残していった。





結局力不足でイギイギを絡ませられなくて本当に残念でした…。
こんなものですいませんでした。リクエストありがとうございました!