すべては君の思うがまま



まるで鏡を見ているようだ、と僕らを見た人は口々に言った。確かに、僕らはとてもよく似ていた。金色の髪に、青色の眼に、顔立ちまで。僕はそれが酷く嫌だった。元気よく、明るいアメリカ、気弱で人見知りの僕。僕らが会うことのできた人の数なんて少ないものだったけれど、それでもその瞬間、皆の中心に立つのはアメリカだった。僕はただ、くまを抱えて見ていただけ。彼のことは嫌いだった。全部奪っていく。人の視線も、注目も、栄光も、そしてイギリスさんも。そうだ、なんだかんだいってイギリスさんもアメリカを気にかけているのは目に見えていた。僕はアメリカに間違われることばかりだった。全てを手にする君。見ているだけの僕。あぁ、悔しくて、悲しくて、嫌いだった。嫌い。



「う…ん…」

僕の隣で彼は意味不明な呟きを残して寝返りをうつ。僕はぼんやりそれを見つめながらくしゃくしゃになってしまった自分の癖毛をいじって、そして溜息を吐く。
なぜ僕が嫌いなはずの彼とこんな関係になっているんだろう。きらり光る朝焼けを見ながら思う。きっかけはもう忘れた。ただ、流されるままだったような気がする。ほんの小さなすれ違いから生まれた永遠の決裂のあと、アメリカは酷く放心状態に陥って、そして僕はそんな彼のいちばん近くにいた。そうだ、きっと彼にとって僕はただ一番近くにいた存在ってだけだったんだろう。じゃなかったら、どうしてあんなに輝いてた君が僕なんて欲しがるはずがない、


『さみしいんだ。』
『知らないよ…僕…に言われても…』
『離れてせいせいしたって思っていたのに、なんでこんなにさみしいのかわからないんだ。』
『僕にも分らないよ…ねぇ、かえっていいかな?』
『…慰めてくれないのかい?』
『…どう、いう、意味…っ』


あぁ、でもあの日触れた唇の暖かさは離すには惜しすぎて、僕は結局逆らえなかった。アメリカは、慣れていた。受け入れるのにも、ソウイウ行為にも。あぁ、脳裏に嫌なイメージがよぎって消える。あぁでもやはり、彼はすべてを奪っていた。僕らの育ての親も奪っていた。


「…うー…まぶしいよ。閉めてくれないかい?」

ふらふらとのばされた腕が空を揺れる。僕はあわててカーテンに手をのばしかけて、やめた。きらきらとシーツの中で揺れる金は僕と似ていて、それでも僕のと違ってきれいなストレート。指でそっと梳く。揺れるシーツ。

「やめてくれよ…まだ眠いんだ…。」

薄らとあいた空色。僕と同じ色。揺れる金、僕と同じ金。でも違う。僕らは違う。輝く君と、その後ろで立ちすくむ僕と。全てを奪った君を僕は憎んでいたはずなのに。なんで今、彼の思うままに僕はここにいるんだろう。あのとき、彼を突き放してやればよかったのに。せめてひとつだけでも、奪ってやればよかったのに。

彼の指を引く。起き上がる彼のその指を折ってしまったらすこしは僕は彼を負かすことができるんだろうか。手に力が入る。彼の指が曲がる。そして、

「痛いよ、やめてくれよ。」

彼はふと顔をあげて、それから僕の手を止めた。ふわり笑う。笑う。


あぁ、どこまで残酷なんだろう。どこまで君は僕の周りを支配していくの。



最後に残ってた僕の心も、今は。



そして結局僕は、のばされた指にキスをする