僕らの愛は変わらない
起・・・はち
「フランス兄ちゃんに教えてもらいました」
仕事の邪魔だから帰れ、との冷たいツッコミをもさらりとかわし、机に向かうドイツの隣へとイタリアは立っていた。
そしてにこにこ笑顔でそんな一言。は? 何だ、その笑みと口調は。気持ち悪い。
「えへへ何教えてもらったと思うでありますか隊長!」
「知らん。どうでもいい。もうそろそろシエスタの時間だろう家に帰って寝ておけ」
「ヴェーシエスタにはまだ早いんだよねぇ、それに俺いますっごくドイツと遊びたいというか、ああでもドイツがシエスタするっていうならいっしょに」
「そのまま三日ぐらい目覚めるな」
ぴしゃり、と会話を完結し、ドイツは再び書類へと向き直る。イタリアはぱちくりと目を瞬かせていたが、次の瞬間むぅと唇を尖らせた。何だよ、俺より仕事の方が大事なの? おそらく、実際に問いかけたら即断即決でJaとの答えが返ってくると思うけれど。
(最近冷たいよ冷たすぎるよ俺の心はサッポロユキマツリだよ)
もう一度その横顔を見つめる。その蒼の眼差しは書類の文字へと注がれていて、
自らに向けられる気配は微塵もない。ぐるぐる複雑な感情が胸の中で渦巻いた。
でも。そうだ。
そんな状況を打開するために、俺は頼れる兄の元に相談に行ったのであり。
「……ドーイツっ」
軽い調子の呟きを一旦は無視しようと思ったものの、結局ドイツは深いため息と共に顔をそちらに向けた。
「いい加減にしろ。これが終わったら付き合ってや、」
「フランス兄ちゃんに教えてもらいました」
そこにいたのは、同じ台詞を告げて、同じようにニコニコと笑う彼。
ただ違ったのは、その時の行動で
「なん、……っ!?」
イタリアはドイツの顔を両手で挟み込むと思い切り顔を近付けた。
承・・・とらこ
思わず目を閉じたドイツのまぶたに、そしてほっぺた、それから口の端っこに。くすぐるみたいに唇をかすめる。鼻、おでこ、あご。けれど、ドイツが思っていたところには、唇は下りてこない。目を開けて、イタリアを両手で押し返そうとしながら、ドイツはやめないか、と声をあげた。けれど、イタリアはにっこり笑って、またあちこちに触れるか触れないかのキスを繰り返す。いつもは、すぐに深く深く、無理矢理にドイツの舌を絡めとってしまうのに。
「やっぱり、兄ちゃんの言うとおりだ。」
イタリアは、無邪気に笑った。そして、いつの間にか無意識に薄く開いていたドイツの無防備な唇を指でなぞる。
「たまには引いてみろ、そうすれば、ドイツの方から誘ってくるって。」
あれでお前は引いたつもりなのか。それに俺は誘ってなどいない。ドイツの頭に、言ってやりたいことが一気に溢れたけれど、ドイツが何かを言う前に、イタリアは噛み付くようにその口をふさいだ。
転・・・樹
恥ずかしさにドイツが目を逸らそうとしても、イタリアの真っ直ぐな視線と少し潤んだ大きな瞳がそれを許さない。
「あはは。だーめ。逃がさないよ」
言って一瞬だけ唇を離したイタリアはいたずらっ子の様に残酷で綺麗な笑みを浮かべると、再び噛み付くようにドイツの唇を奪った。
ドイツの微かな抵抗の言葉は全部イタリアが飲み下してしまう。
力づくで押し返そうとイタリアの胸に触れたドイツの手は、だけど何故だか上手く力が入らなくて、ただただそこで規則正しく時を刻むイタリアの鼓動を感じる事になった。
そうした格好のまま、イタリアにとっては一瞬で、ドイツにとっては永遠ともとれる程長い時間が経った頃、少しずつ深く入り込んでくるイタリアの滑らかな紅い舌に、ドイツの口から微かに甘い声が上がる。
艶かしい熱の篭ったドイツの暖かい息を直接肌に感じ、イタリアは人の体温の暖かさを実感して頬を緩ませた。
こんなにも俺は、ドイツに愛されて、こんなにも俺はドイツを愛してる。
イタリアが嬉しくなって、貪欲にもっととドイツの口内を弄れば、ドイツの頬が微かに赤らんでくる。
イタリアの気の所為でなければ、先ほどから自分に触れるドイツの手が微かに震えているような気がした。
あぁ、何て可愛い、俺の恋人。
結・・・さとき
「ねぇ、いつもの俺と今日の俺と、どっちが好み?」
意地悪くドイツに囁いてみるのに、ドイツは答えない。あぁもう、いつもは俺にちゃんと返事しなさいって言うくせに。こんなときばかりドイツは黙る。
「ねぇ、どっち?」
「イタリア、俺は仕事が。」
また?また仕事ですか。イタリアは少し顔をしかめる。嫌だなぁもう、いつもこうやってはぐらかされる俺の身になってよ。文句を言おうとして、そこでやっとイタリアは気がつくのだ。見下ろす彼の顔が、もうビジネスのそれじゃないこと。違う感情に支配されてること。イタリアは緩く笑う。笑って、まだ困ったように書類に伸ばされかけた白い指を絡めとる。駄目、だめだよ。もう終わり。
「ドイツの負けだよ。」
耳元で囁いて、また赤くなったドイツに最後の通告を。
「俺、勃っちゃったもんね。」
慌てたような抗議はキスで飲み込んで、ソファに押し倒しながら、ふと思う。どうしよう、これ、
「いつもと変わんないや。」
まさかのエロ展開にアンカーの俺涙目でした