コバルトブルーの空に溺れた



コバルトブルーの空は今日もきらきらと輝き、イタリアはそれを見つめて少し目を細める。マフラーを忘れた首筋に冬の風は冷たく、白い息を吐きながら数えた白い雲は五つ。今日は快晴、コバルトブルーの空。

「あれはくまさんっぽいしー…あれはキャンディ?」

雲に適当な名前をつけて、ふらふら足元は覚束なかいけど、でもまだ大丈夫。ぶつぶつ呟き続けるイタリアの隣を明らかに不審そうな目をした女の人が避けるように歩いていった。やだなぁ、頭はまだ大丈夫なつもり。コバルトブルーが悪い。こんなに綺麗だから悪い。視力が落ちたのかなんだかぼやけたような視界がちょっと嫌になった。ぶれる標識、雲が一つ増えて六つになった。

「あ、鳥だ…」

視界の端、コバルトブルーを引き裂くように飛んでいく鳥が一羽。それはぼやけた視界の中で妙にはっきり見えた。イタリアはそれを追い掛けて、首を回し、あーあぁ、ダメだ、追いつけない。イタリアの進行方向とは真逆に進む鳥を目で追い掛けて、背中を一杯に反らす。ぐいっと反らして、あ、と思ったときには遅かった。ぐらりと世界が揺れる、歪む、後ろに倒れる感覚。コバルトブルーが消えて、それから、


「…何してるんだ。」


次に見えたのは金色の髪。瞬きするイタリアの向こう、顔をしかめたドイツがため息をついていた。もう一度瞬きをして、それからイタリアは笑う。笑う。六つの雲と一羽の鳥はもう見えない。コバルトブルーも、あぁでも、うん。


「空がとびたかっただけ」


ドイツはまた盛大に顔をしかめて、イタリアは笑った。コバルトブルーは眩しすぎた。羽を持たない自分には、彼のそばが1番素敵。


だからもう飛べなくてもいいんだ。
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