きみに、ゆめみた
一か月同居生活5日目
夢を見ていた。
そう、夢。イギリスは歩きながら(とはいっても夢らしくふわ
ふわしてるもんだからどうにもそんな実感はわかないのだけれ
ど)これは夢だと感じていた。
めずらしい、こんなこともあるのだ。
夢、これは夢。そんな無駄にはっきりした意識。
歩く自分の向こうに、ふと黒が見えた。
ゆらゆら、揺れる黒。髪の毛だろうか。
自分はあんな綺麗な黒を持つ人は一人しかしらない。
ー日本。
少し足を早める。
日本、日本だ。
声をかけるべきか、いや、でもまずいだろうか、と逡巡して、これは夢だとおもいたつ。
そう、夢、夢なのだ。だから何をしてもいいはず。
何をしても?
・・・なに、を?
自分の発想に自分自身が怪訝に思う。何をしてもって何をだと
いうんだ。
わからない。わからない。わからないのか?
声をかけなくとも、見ているだけでも黒髪は綺麗なのだ。
だから、声をかける必要はないさ。
でも、でも、
こっちを向いてくれないだろうか。振り向いて、くれないだろ
うか。そしてできれば、自分のところに、きて、
小走りになりながら日本に近づく。目前に迫る黒髪。
もう少しで、手が届く。不意に、日本が振り向いた。
「ーおきてください!」
「うわぁがwdsrvcだfbafa:ふぁが日本!!!!」
「え、え、なんですか!!!」
驚いた声に気づけば、目の前に広がるのは自室の風景。
イギリスは呆然と辺りを見渡す。あぁ、夢か、って夢の中でも
気づいていたけども。
顔を巡らせれば、起きてすぐに大声を出したイギリスにやや引
き気味の日本の姿。
や、やぁ、おはよう。とかなんとか、とりあえずあいさつしてみれば、はぁ、
と気の抜けた返答。
「…なかなか、個性的なお目覚めですね。」
「あ…まぁ、な。」
はははは、となんとなく笑う。
あぁもう、なんでこうなるんだ。
「とりあえず、ご飯できましたので…」
「あ…すまない。今、行くから。」
そういえば、良い匂いがしている。スクランブルエッグか。
一日目に宣言されて以来台所に立たせてもらえないのはいささか悔しいが、日本は料理上手なので、文句もいえない。
では、お待ちしていますね。小さく笑った日本はそのままイギリスに背を向けた。
歩き出す。
ふと、そう、ふと、その姿が、夢と重なった、のだ。
「ー日本!!」
「…え?」
声を出して、そして出してしまってから、イギリスは気づく。
なぜ、呼んでしまったのか。
夢と、夢とにていたから。
あぁ、なぜ、自分は夢で彼を呼ぼうとした?
振り向いて、ほしくて、それで、
「どうか、しましたか?」
怪訝そうな声音に我に返る。
いや、と小さく呟くと、日本は曖昧な笑み。
「食堂で、お待ちしています。」
ベッドの上に座りながら、イギリスは頭を抱える。
いろいろな思いが交錯して、どうにかなってしまいそうだ。
「あぁ、クソ。」
呟く声は、朝日に溶けて消える。
日本が帰るまで、あと、25日。
なんだってんだ、この思いは。
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