一か月同居生活
16日目
なんだかとても私はおかしかったのだ。
あの手紙を見つけた日から、私はどうにも何か焦燥のような気持ちを抑えきれなくなっていた。
「大丈夫か?」
声がして、振り向いたらそこにイギリスさんの姿。
そんなに、私はおかしいだろうか?
彼の言葉は、たぶん親切心によるもので、何も悪意などはなくて、そんなことは解っていたのに、なぜか酷く苛々してしまう。
あの白い封筒は未だ私の机の中にある。
あのせいで、なにかがおかしくなったのだ。
イギリスさんの優しさがなんだか心に痛い。
だからなのか、いや、多分これはたんなるきっかけに過ぎなかったのだろうけれど。
「大丈夫か。日本?最近少しおかしいから、」
「大丈夫ですよ、イギリスさん。」
彼の言葉を振りきるように一言だけ返して、私は部屋へと駆け込む。
こんなことが何か良い結果を産むとも思えなかったがこれ以上にすべきことも思いつかない。
だから、その勢いのままに白い封筒に手をのばした。
震える手でカッターナイフを握る。
あれほど私を悩ませた封筒は紙の擦れる音を残してあっけなく開いた。
中には封筒と同じ白い便せん。癖のある幼い字がそこに踊っていた。
『イギリスへ。
このほんはとてもおもしろかったぞ!またきてくれるのをたのしみにしてるから!
いいこにしてたら、またきてくれるかい?いいこにしてるから、こんどはもうすこしいてほしいな。』
そこまで読んで、私は、思わず手を離す。
中の手紙は、そのような内容が延々をつづられているだけの手紙だった。
子どもが信頼した大人に送った手紙、それだけだった、それだけ。
いや、そんな内容だということはおおよそ見当がついていたのだ、不意にそんなことを想う。
なのに、私はどうしてこんなにこの手紙に引きずられたんだろう。
「痛、」
ちくりとした痛みに指を見れば、そこに血が滲んでいた。
さっきのカッターで切ったのかもしれない。馬鹿な自分の馬鹿な失態。
私は苦笑しながらそれを見る。
視界が滲んで、あぁ、私はどうしてないているんだろう。
あの手紙には何も重要なことは書いていなくて、それでも確かに私が手にしたくてもできなかったものがあったのだ。
私の持ち得ない過去があったのだ。
後から飛び入りをした私にはけして追いつけない時間。それが、私は羨ましかったのだ。だから、
彼を知りたいと思った。これまでで一番彼を知りたいと思った。
彼の全てを知りたくて全てが欲しいと思った。
こんな感情はどうにも初めてで、だけどもこれをなんと呼ぶのか知らないほど私は馬鹿にはなりきれない。
あぁ、どうしたらいいんでしょう。
「好き、です。」
目から零れた滴が傷口にしみて、痛みと何か焦げ付いた気持ちと今の私にはどちらも苦しい。
気持ちにきづいてしまいました。
拍手、ありがとうございます。