その白い封筒は、開けるにはしのびなく、また、持ち続けるには荷が重すぎたのです。
一ヶ月同棲生活
13日目
ようするに、それは捨てるにも持ち続けるにもまた開いてしまうにも私には荷の重いものだったとそういうことなのだ。
白い封筒は私の机の上で異彩を放っていて、私はまたそれに手を伸ばしかけてやめる。
その上に踊る不器用な文字はこれがイギリスさんへの手紙だということを示していた。
だからそう、これは持ち主のもとに返されるものなのだろう。筋を通すならばそれが一番だ。
なのに私はそうもできない。
イギリスさんとアメリカさんの関係は遠い東に住む自分の元までも伝わっている。
あの2人の複雑な心中は聞かされていた。
この手紙はその象徴のようにも思えて、なおさら私にはどうすることもできなかった。
その2人の物語の欠片はこの手紙に詰まっている。
夜の自室はとても静かで、まるで消えていきそうな気分になる。
窓近くの本棚に以前買ってもらった本を私は入れていた。
結局あれからほとんど読むことが進んでいない本は、立派な装丁で高いことが一目で解る。
自分は優遇されていると思う。ただ、それでも拭えないことはあるのだ。
「私は、何も知らないのです。」
彼のことも、過去のことも、アメリカさんとのことも。
その事実がなぜか自分を苦しい思いにさせた。
なぜかは解らない。
ただ自分では知らないことが白い封筒の中で、自分の見えないところで繰り広げられているのだということが悲しかった。
こういった気持ちになることは少なくない。
私は所詮ただの極東の島国であり、後から参入してきた小国でしかなかった。
この欧州には既に私のいない歴史ができすぎていて、自分の入る余地などないのだから。
だから、何故今回ばかりこのような気持ちになるのかがわからない。
そんな事実ははじめから解っていたことで、今気づいたことではないのに。
何故そんな思いになるのか。
考えることを私は放棄した。
見えかけた心を放置した。
白い封筒を手にとって、その内容を思い浮かべようとする。
幼いアメリカさんがイギリスさんと共にいる様を思い浮かべようとしたのだ。
しかし、それはあまりに無理な話で、私は俯いて嘆息するしかない。
たかだか後から飛び入り参加しただけの者には、想像すらできないのだ。
隣の部屋でイギリスが動いたのだろうか、かたり、と音がする。
不意に、彼について知りたくなった。
目を閉じながら、私はふと呟いた。
「今、貴方の物語に私は介入できているのでしょうか。」
なんだか暗くなってきてしまいました。でも、仕方ない…。まだ続きます。
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